忌まわしき再会

 一振りの剣が、次の瞬間、二振りに増え左右の手に握られている。それが双剣。二つがぴたりと重なり、一つの鞘に収まるように作られた剣である。エルマーはこの手品じみた剣を得意としていた。一本にまとめて重い斬撃を行ったかと思うと、二本に分けて目にも止まらぬ速さで切り刻む。こいつが敵でなくて良かったと胸をなでおろす。そして、味方であることに限りない頼もしさを感じる。昼間の探索と夜の憩い。エルマーと共に過ごした日々がガストンの脳裏に浮かんだ。

 しかし、目の前にいるのは旧知の剣豪ではない。先程の小競り合いでもわかった。太刀筋が違うのである。ゆえにガストンは言う。

亡骸なきがらで遊ぶんじゃねえよ」

 その言葉はエルマーのゾンビの向こうに隠れた瀕死の女魔王に向けたものである。彼女はニヤリと笑い、別の「遊び」を仕掛けてきた。

「我を封印していた魔法は時を止めるほど強力だったか。たったひとりだが、いまだ生前の記憶を留めている者がおったぞ」

 イブリータは苦しみながらも、笑みを作って言う。

 大地が割れ、死人の白い左手が陽の光の差さぬ地で芽生えてしまった草のようにひょろりと伸びた。次に現れた右手には槍が握られている。

 地面から前かがみの上半身が出てきた。地に手をつけ顔をあげた。にやけた笑いの隻眼の老人。老人とはいっても、いまやガストンのほうが彼の歳を追い越してしまっていたが。

「師匠……」

 ガストンはチャリオットを止め、地に降りた。彼に槍を稽古してくれた『魔槍のハーヴィ』がそこにいた。ガストンがいちばん会いたくない、そしていちばん会いたいと願っていた人物であった。

 ハーヴィは槍と魔法を得意とした。魔王大戦前の暴力的な教育でガストンに自分の技量のすべてを教え込もうとしたが、ガストンは結局、魔法を微塵も理解できなかった。パーティーを定年退職させられた今でも分からないのだから、おそらく一生無理だろうと思えた。ガストンは不肖の弟子であることを以前から恥ずかしく思っていた。

「師匠、すみません。あれからも努力はしたんですが、魔法のほうはいっこうに…」

 つい、普段から思っていた詫び言が口をつく。

 しかし、ハーヴィは答えない。相変わらずにやけた笑みを浮かべ、そして、不意に突いてきた。槍はガストンの心臓を貫く――寸前に白い塊に突き刺さって止まった。白獅子ホワイトライオンの前脚である。すぐに青い血が噴き出してきた。

 この間に、エルマーのゾンビは後にまわりこもうとしていた。

「おうおう。生きてる頃の記憶がある奴は、その槍使いだとは言っておらんぞ。早とちりなジジイだ」

 早くも再生を果たしたきれいな顔で女魔王は言う。

「死体遊びも禁止。言葉遊びも禁止だ。このド外道め!」

 ガストンが怒鳴る。

 前方は『魔槍のハーヴィ』が閉ざし、後方は『双剣遣いのエルマー』が塞ぐ。果たして、ガストンに活路はあるか。

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