強弓《ごうきゅう》の引き手
ガストンは口が渇ききるほどの恐怖を感じる。
二つに分かれたエルマーの双剣が激しく打ち合わされる音がした。それだけでガストンには、背後にある剣が火花を散らしていることがわかる。思い出のなかと変わらない。変わったのはガストンが年老いたことと、エルマーが敵だということだ。
ガストンはエルマーからの攻撃を避けることは諦め、眼前の槍遣いハーヴィに集中することにした。屍人と化した師匠は人生最期の敵にふさわしいと思えたからだ。たとえ期せずして背中から双剣で真っ二つにされることになるとしてもだ。
覚悟を決めてオリハルコンの槍を構える。といっても自然に上にあげただけだ。若い頃は槍をぶん回したり、目にも止まらぬ連続突きを披露して威嚇したものだったが、今はもうしない。本当に強い奴はそんな
「バアさん、やってくれるじゃねえかよ。嬉しいぜ」
ガストンが呟く。視界にララノアの姿はないが、こんな矢が射れる者を彼女以外にガストンは知らない。
ガストンの背後から、馬の蹄の音が聞こえてくる。その音に合わせるように、なん本もの矢が
さらに馬が近づくとララノアの叫び声も聞こえるようになった。意外にもそれは罵声であった。
「人間たちなんで私に助けを求めないの。バカなの? 死にたいの? 特にガストン。ソフィアに手紙出させたの、あんたの入れ知恵でしょ。そんな暇があったら私を呼びなさい。ソフィアのことなんだから私も行くわよ。むしろ、あんたが邪魔なくらいよ、バカ!!」
ガストンはララノアの罵詈雑言を聞き流し、溜息をひとつついた後、槍を構え直す。魔槍遣いとオリハルコンの聖槍遣い。師弟対決が今始まる。
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