屍人の群れ

 突風の速さで駆け抜け、荒れ狂う大波の勢いで、屍人どもを蹴散らす。ガストンの駆る白獅子の戦車チャリオットはまさに疾風怒涛。囚われのソフィアを目指して森を駆け抜ける。

 一方、その頃、イブリータと対峙した冒険者たちは魔王を恐ろしさを味わされていた。

 先の魔王対戦の英雄たちの亡骸なきがらを触媒として作り上げたアンデッドは生前と同じ強さを持っていた。ただし、その圧倒的な強さはイブリータのために使われる。

生前、その斧にて割れぬものなし、と謳われた戦斧の遣い手オーランドは、いま冒険者の兜割りの新記録に挑んでいるようだった。

 まず縦に割り、次に横に刃の向きを変え、勢いをつけて横から振るう。

 なまくらな斧の刃のせいで首はきれいには飛ばず、首の皮で繋がったままでうなだれる。歯噛みして目を見開いた苦悶の表情。なかにはその凄まじい姿のまま息をしている者もいて、痛い、苦しい、助けてなどと呻き続けるのだった。

 そして、呻き声が途絶えた次の瞬間、急に活発に動き始める。頭がもげたままで足取りも軽やかに。魔王のネクロマンシーは即効性が高い。傷ついた腕に襲われるものさえ出る始末である。死んだ腕だけが支配されたのだ。

 死者が死者を作り、死が広がっていく。

有象無象はさっさと魔王軍に鞍替えさせられ、戦闘能力の高い者だけが後に残る。オリヴィアやアレックスはまだ生きていた。

「もう終わりだ。ザコの相手は飽きてきた。早く王国軍を呼ぶがいい」

 イブリータが言う。

「王国軍は来ない。私が来させないようにした」

オリヴィアが即答する。

「何の権利で? おまえ、何者だ?」

 顔を見てしかめて女魔王が問う。この女、不愉快だ。しかも、すこぶる付きで。

「王に婚約を破棄された女よ。慰謝料がわりに祭り事に口を挟むぐらいのことぐらいできるわ。私、あんたみたいな非科学的な存在がのうのうと過ごしてんの許せないたちよ」

 オリヴィアの言葉の意味を考えて女魔王は一瞬黙り込んだ。そして、はたと気づいて大笑いした。

「哀れなオンナが死に急いでおるのか。そして、わたしの目にゴミを入れたアレが、おまえの錬金術だと」

「錬金術じゃない。科学よ」

「カガク? 言い方を変えてるだけだろう。実にくだらんな」

「黙れ! 科学をバカにしたやつは科学に殺されるんだよ!」

 オリヴィアはまたしてもスカートの中の武器庫から何やら取り出すのだった。それは大きなガラスの管の中に銀色の金属球を封じ込めたものだった。

「特殊燃素の激しい反応によって、近くにあるものの燃焼を全て停止させる爆弾。名づけて『フロギストン・デストロヤー』。炎を失って死ね!」

 オリヴィアは味方の避難も考えずに、起爆スイッチを押した。

 眩しさで何も見えなくなり、轟音で耳が聞こえなくなる爆発が起きた。

「何だ、ありゃ?」

 先を急ぐガストンもチャリオットの上で振り返ってみるほどであった。

 はたして、その結果は…。

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