駆けつけた獣

 やっとのことで死人の群れを片付けたガストンは一汗かいてしまっていた。

「やれやれだぜ…」

 ガストンがほしかったのは、仕掛けた罠のいちばん大切な部分、獲物を斃すための槍だった。

 鉄製のもの、木製のもの、竹でできたもの…。槍の名手である彼が選んだものだから威力は折り紙付きだ。

 罠から外した槍を木製の荷車に積んでいく。荷車は町から罠の材料一式を運んだ時に使ったものだ。あの時はガストンが自分で引っ張った。今度はそれでは間に合わない。

 ガストンは長く響く指笛を吹いた。澄んだ音が森の奥まで響き渡る。

 指笛に応えるものがあった。目の前の地面に光によって魔法円が描かれる。

 それは現れた。ガストンが召喚魔法を使ったわけではない。向こうがガストンの声を聞きつけて、魔法で空間を飛び越えようとしているのだ。

 顕現けんげんしたのは白きモンスター。その姿は――あまりに白い猫に似すぎている。

 白猫にしか見えないものは「ニャーン」と一声鳴いた。ますますもって白猫である。

「おお、よく来てくれたな。お前は出てくるときいつも出会った頃の姿になるよなあ。大丈夫だぞ、今の姿になっても、お前だってわかるから。むしろなってくれ。悪いんだけど、引っ張ってほしいものがあるんだ」

 ガストンの言葉を聞いて、白猫はその正体を現す。身体は人間の大きさを遥かに超え、体毛は伸びて首のまわりにたてがみが生じた。白獅子ホワイトライオンである。体内の魔法石で生きるモンスターの一種だ。しかし、青みを帯びてさえ見える純白の体毛のせいか白獅子は見る者に高貴な印象を与えるため、神獣と呼ぶ者もあった。

「この戦いが終わったら焼き肉大会を開く。ご招待するよ。いい肉をたらふく食わせてやる」

 そう言うと、神獣はまたしても「ニャーン」と鳴き、ガストンにすり寄ってきた。

 ガストンが白獅子の頭からたてがみにかけて撫でるとゴロゴロと喉を鳴らす。

 ガストンは若い頃、この白獅子の子どもを育てたのだ。大鷲に食われそうになっていたところを救い出し、毎日、餌をやった。大きくなった白獅子は森に帰っていったが、お互い忘れてしまったわけではなかった。

「ちょっとそこいらを走り回って腹ごなししよう。お前の妹みたいな娘が魔王に囚われている。一緒に救い出そう」

 槍を満載した荷車から出ているつなを白獅子に結びつけた。

「これからしばらくはニャーンじゃなくていい。大人の凄みを効かせた啼き声を頼むぜ」

 言うと、白獅子は聞く者の動きが凍りつくような野太い野獣の咆哮ほうこうをあげた。

 走りはじめたのはもう荷車ではなかった。神獣が曳く戦車チャリオットである。

 この国一番の槍使い、ガストンを乗せた戦車は大戦墓苑の中心地を目指し、加速していく。


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