かぐや彦物語

@kotohamagia

第1話 かぐや彦誕生

いまはむかし、竹取のおきなというものありけり。

野山にまじりて竹を取りつつ、よろずのことに使いけり。

名をばさぬきのみやつことなむ言ひける。


**********


それは満月の夜のこと。

一本の竹の中に、とても美しい手のひらほどの大きさの子どもがおりました。

おじいさんはその子をそっと手で包み込み持ち帰ると、おばあさんと一緒に大切に育てました。


その子は竹のようにすくすくと育ち、三ヶ月ほどで立派な姿に成長していきました。



「竹の中から生まれ、輝かしいばかりに美しいから、なよ竹のかぐや姫と名付けよう」


……とその子に名を与えたのはまだ拾ってきたばかりのこと。



**********


「や、姫や……そんな水干など召して……まるでおのこではないか」


腰ほどに伸びた髪を高く結び、童のような恰好をして庭に飛び出していたかぐやを見て、翁は困惑した。


くるり、振り返った顔の美しさに、翁は思わず息を飲み込んだ。

美しくて――なんて冷たいのだろう。

この子はずっとそうだ。月の光のように淡く優しく、冷たいのだ。


「私はおのこでも、おなごでもありませんよ」


かぐやはそっと口元に笑みを浮かべると、はかまの紐を解き始めた。

そして、水干すいかんの下に着こんだ単衣ひとえのすそをかき分けまくりあげた。


「こ、これっ! そんなはしたな……い……」


両手で顔を覆いながら、指の隙間から思わず見てしまう。

けれど、いかんせん年をめしているために、ぼやけて陰になっている個所の詳細は見えない。

見えるのは、なまめかしく張りのある白い太ももである。


「私にはおのこの証もないかわりに、おなごである証もございません。

残念ながら、あなたがたのおかげで……だいぶ女には近くなってしまったようですが」


「ん……ん……? な、何を言っているんだい、お前は」


「わかりませんか……? わからないでしょうね、あなた方には。

あなたは……私を拾い育ててくれた。愛情を与えてくれた。名を与えてくれた。……おなごであるように育てた。……あなた方がくれたものが、私を女に変えようとしている。それはあってはならないことです」


「姫……何か怒っているのかい。私たちが与えた名が、気に召さなかったか?」



目を潤ませて見つめてくる翁に、かぐやは思わず顔をそらした。



「……私たちは本来、性を持たぬのです。生まれ消えるまで性がない。それが我々です。なのに……私は変質しようとしている。愚かしいことに。私はあなた方に対して……」



苛立たし気に歯噛みすると、かぐやは背を向けた。



「や、かぐや姫。すまない。この翁やババが何か気に入らないことをしたというなら、言ってくれ」


「……あなた方に罪はありません。けれど、もし私を思う気持ちがあるというのなら、ただかぐやと、そう呼んでください。私は姫ではないのだから」


「わ、わかった。かぐや。わかった……私たちの可愛いかぐや」


「……新月が近い。だから私はこうなったのか……。私の身体が、決めようとしているのか、私を人間に……」



ぼそり、と呟かれた言葉は、翁の耳には通らなかった。

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