『オーダーは探偵に』/特別選り抜きエピソード連載

ビスケット 1/2【『オーダーは探偵に グラスにたゆたう琥珀色の謎解き』より】

ビスケット 1/2〈1〉


「悠貴君かつだよ!」


 美久は部屋の隅に立ち、目の前の悠貴を睨み上げた。


「いつもちゃんと説明してくれないし、ときどき信じられないくらいひどいことするよね! 今だってそうだよ、もうむちゃくちゃ!」


 悠貴は目をすがめた。


「むちゃくちゃなのはどっちだよ、まい毎度変な事件に俺を巻き込んで! お前が来てからこう確率でありえないことが起こる。どういう星の下に生まれついたらそう奇跡的にさんを引き起こせるんだ? やくびようがみだってもう少し慎ましいぞ!」

「なっ!? たっ、たしかにもとは私のせいかもしれないけど……! ややこしくしたのは悠貴君でしょ! かっこつけ、見栄っ張り!」

「悪かったな、ルックスが良くて」

「褒めてないよ!?」

「お前に褒められるまでもなくただの事実だ」

「本っ当に悠貴君は……! もういい、知らない!」

「それは俺の台詞せりふだ」


 二人は睨み合い、ふん、と顔をそむけた。二度と顔も見たくない、そんな勢いで美久と悠貴は互いに背を向ける。

 そして、どすん、と二人並んでその場に座った。

 布を敷いたスペースは狭く、身じろぎしただけで肩が触れた。


「おい、こっちに寄るな」

「そっちこそ」


 美久は言い返して、膝頭に顎を置いた。




 事件発生から四時間。孤立した二人にまだ助けは来ない。

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