0ー17【花火】


 乙音の奴、やってくれるぜ……


「悠一郎さん、もっと色々回りましょう!」

「お、おうよ……」


 だ、だからあまりくっつくんじゃ……はぁ、仕方ねぇ彼女だぜ。

 何だってんだ、コイツといると調子狂うぜ。乙音の髪からはめちゃくちゃ良い香りがして来やがる。りんご飴の匂いじゃねぇぞ。

 アレだ、女の子の香りってやつだろ、コレ。


 いかん……途端に緊張してきやがった。



 この後、俺は乙音に引きずられながら祭りの屋台をひたすらに回った。

 射的では跳ね返った球がリーゼントに刺さり乙音が笑い出しやがったし、くじ引きではしっかり当たりを引いてしまったぜ。


 くじ引きの景品である謎のぬいぐるみを大事そうに抱いて歩く乙音に時折キュン死にしそうになるのを硬派に耐え抜く。次は輪投げだぜ。


「今度はお前がやってみろ。見てるだけじゃつまらんだろうが。」

「私は悠一郎さんを見ているだけで楽しいんですけど、……輪投げですか。やってみます!」


 乙音はおっさんから輪を三つ貰い、狙いを定める。つま先立ちでプルプルしてんじゃねぇ!

 そこまでして何が欲しいんだ?


「えいっ!」と一つ目を投げるが外れ。続いて二投目もおしりを突き出し投擲するがおっさんの顔面にヒット。


「おっさんに当ててどうすんだよ。」

「こ、これで最後、ですっ!」


 意地になった乙音は間髪いれず三投目を勢いよく投げた。輪は再びおっさんの顔面にヒット、跳ね返ったソレは俺のリーゼントに引っかかってぷらんとぶら下がって揺れた。


「お嬢ちゃん、可愛い顔してファンキーだな。気に入ったぜ。そのリーゼントのあんちゃんはお嬢ちゃんのモノだ、ガッハッハ!」


 ガッハッハじゃねぇよ!


「悠一郎さんは私のモノ……やりましたっ!」


 やりましてねぇよ!



 ったく、乙音といると変な事ばかり起きやがる。珍しく大胆に腕まで組んでくるし……

 ドキドキするじゃねぇかよ!


「どうかしましたか?」

「ピャーッ!」


 どうもこうもねぇやい!

 コイツは自分が可愛いという事に気付いていないのか?


「あっ、悠一郎さんっ見てくださいっ!」



 乙音の指さす方を見上げると、ドン、と大きな花火が光った。それに続いて二発、三発と、次々と花火が夜空を彩り始めた。

 ちぇ、綺麗じゃねぇかよ……


「悠一郎さんっ、もう少し近くで見ましょうっ!」


 乙音に引きずられながら花火の良く見える場所に移動する。凄ぇ音だな。

 周りはカップルで埋め尽くされてやがる。


 乙音は空を見上げて目を輝かせている。花火の光が曇りのない瞳に映り込んでキラキラしている。


「……綺麗……!」


 ばっかやろう、お前の方が綺麗だってんだっ!



 こうして初めてのデートらしいデートは終わり、夏休みも終わりを告げた。



 試合まではあと少しか。

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