第二十九話 ミミック、慎重になる
「お、大きいですわね……」
ロベリアは巨大なバリアの塊を撫でながら、苦笑して言った。
「すまない、フェニックスが覚醒していたんだ。なんとかうまく、保管しておいてくれないか」
屋敷の庭に出現したフェニックス入りのバリアは、すぐにみんなの注目の的になった。
すっかり屋敷の一員になったダーク・ゴーレムが両手で持ち上げ、その上にフェンリルが飛び乗って、半ばサーカス団のようになっている。
普段から庭には何もないし、珍しくてはしゃいでるんだろう。
「ドラン様の頼みですから、それはもちろんなんとかしますわ。ですが、申し訳御座いません。まだ、ミスリルは見つかりませんわ……」
「ああ、いいんだ。ありがとう、探してくれて」
「確か、ドラン様が魔王でいらした頃に手に入ったものの中に、ミスリルで出来た装飾品があったと思うのですけれど……」
「ゆっくりでいいから、引き続き頼む。俺とハルコはスカイバレーに行くけど、ツバキはそっちの手伝いに回ってもらうよ」
ツバキは素直に頷くと、屋敷に向かって飛んで行った。
それなりに疲れたんだろう。
ダイヤトータスの方にはマチルダもウルスラもいるし、ツバキには休みも兼ねて、ロベリアを助けてもらうことにする。
「じゃあ、あとは頼んだ。行くぞハルコ」
「はい!」
ロベリアに手を振りながら、再び開いた次元の穴に飛び込む。
スカイバレーには一度ハルコを連れて行ったことがあるから、このまま直通だ。
「いやぁ、相変わらず便利便利」
「えっへん、です!」
俺たちが降り立ったのは、ホルスを捕らえた辺りの岩壁だった。
周囲を見渡してみるが、マチルダとウルスラの姿は見えない。
「下層って言ってたな。よし、一気に降りるぞ」
「はい!」
崖から飛び降り、落下しながらバリアをまとう。
数百メートル落ちたところで飛行魔法に切り替えて、荒野にゆっくり着地した。
「ドラン様!」
声のした方を見ると、マチルダがこちらに走ってくるところだった。
ウルスラの姿はない。
「マチルダ!」
「わーい、マチルダさーん!」
飛び込んできたハルコを胸で受け止めながら、マチルダが駆け寄ってくる。
俺と話しながらも、ハルコの頭を撫でるのを忘れない。
「ウルスラはどうした?」
「ダイヤトータスを発見したので、そこに。ご案内します」
「さすが仕事が早いな。頼む」
マチルダについて、俺たちは飛んだ。
少し行くと、巨大な岩がごろごろしている場所にたどり着いた。
一際大きな岩山の頂上に、ウルスラがしゃがみ込んで身を隠している。
「ウルスラ!」
「静かに。気づかれると手間だよ」
全員で岩陰に隠れて、ウルスラの指差す方を覗き込む。
様々な色や形をした岩の中に一つだけ、不自然に形の整った黒い岩石がある。
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『』
種族:ダイヤトータス SS
HP(生命力):SSS
MP(魔力):A
ATK(攻撃力):SS
DEF(防御力):SSS
INT(賢さ):A
SPD(俊敏性):B
固有スキル:【ヘビー級】【地属性無効】【鈍足】【要塞】【擬態】
習得スキル:【火属性半減】【覚醒:全能力アップ大】
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あれがダイヤトータスか。
しかもまた覚醒持ち。
まあこっちは亀だし、分からなくもないけれど。
「まだ気づかれていないなら、ドラン様の『
「いや、ダイヤトータスは身体を地中に沈めているんだ。全身が視認できていない以上、バリアで覆うことはできないよ」
「なるほど。それにしても、ダイヤって言う割には、見た目はほとんどただの岩だな」
「おっきいですねぇ」
ウルスラが人差し指をピンと立て、少し揺らした。
「あれは外殻だよ。岩石の鱗の下に、更に頑強なダイヤの層がある。まあ、捕獲する私たちには関係ないけれど、何にしても、地中から全身を引っ張り出さないと、それも難しいね」
「力ずくで良いならなんとかなりそうだけどな」
「やめた方がいいね。ダイヤトータスは地中での動きがかなり速い。少しでも警戒されれば、地面に深く潜られておしまいだよ。苦労して見つけたんだ、また見失うのは避けたいからね」
「気づかれずに近づき、一撃で掘り出す。それでよいのだろう?」
「落ち着きなよ、マチルダ。固有スキル【ヘビー級】のせいで、並みの攻撃ではあれは持ち上がらない。それに力強く踏ん張れば、足音が地中のダイヤトータスに気取られてしまうよ。かと言って、宙に浮いた状態では踏ん張りが効かないからね」
どうやらウルスラは、俺たちが来るまでの間にも、かなり色々な方法を考えていたらしい。
マチルダの提案を流れるように却下していく。
「それじゃあどうすればいい?」
「そうだ。否定するばかりでは話は進まないだろう」
「私もまだ、良い案が浮かばないんだ。だから困っていたというわけでね」
なるほど。
うーん、頭の良いウルスラでも駄目となると、肉体派のマチルダと世間知らずの俺とハルコでは、ますます厳しいぞこれは。
「みなさん! ここは僕に任せてください!」
と、思っていたのに、ハルコが自信満々にそう言って、みんなの了解も取らずにスーッと降下していってしまった。
残された俺たちは顔を見合わせる。
大丈夫なのか……?
ハルコがあいつを地面から引っ張り出せるとは、到底思えないんだが……。
「ちょっと見てくる。二人はここで待っててくれ」
マチルダとウルスラを制して、俺もできるだけ音を立てずにハルコを追う。
ハルコには慎重さのカケラもなく、どんどんダイヤトータスに接近する。
空中で追いついてハルコを捕まえ、小声で話しかけた。
「おい、どうしたハルコ。逃げられたらどうするんだよ」
「逃げるって、失礼ですよドランさん。魔物がみんな、こっちに敵意を抱いてるとは限りません」
ハルコはスッと俺の腕から抜け出し、ついにダイヤトータスの顔があると思われるところまで辿り着いてしまった。
「ダイヤトータスさん、ダイヤトータスさん、こんにちは」
「……おいおい」
俺が隣で呆れていると、地面が激しく揺れ始めた。
目の前の黒い岩山の下から、地面を割って巨大な顔が現れる。
鋭い牙と、頑強そうな皮膚。
眠そうな目が二つ、じっとこちらを見ている。
まさしく、デカい亀だ。
「やあ、こんにちは」
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