第二十八話 ミミック、圧倒する


 ヴィオラウス火山にはツバキと、それからハルコに来てもらった。

 フェニックスの捕獲にはそこまで時間が掛からなさそうだったので、マチルダとウルスラには先に、ダイヤトータスを探しに行ってもらっている。


 ちなみに、ロベリアは屋敷で留守番だ。

 彼女にミスリルについて尋ねたところ、もしかしたら屋敷にあるかもしれないと、自ら捜索に乗り出してくれたのである。

 さすがは魔王。

 レアなものだって持っているというわけか。


「ロベリアが触媒を見つけてくれれば、すごく助かるんだけどな」

「そううまくいけば良いがな」

「もう、ツバキさんはネガテイブですね! ロベリアさんなら、きっと見つけてくれますよ!」


 そんなことを話しながら、ツバキの案内でフェニックスを探す。

 話によれば、火口に住んでいたツバキとは違い、フェニックスは火山の中腹に住処を構えていたらしい。

 ヴィオラウス火山の支配者だったクリムゾン・ドラゴンに次ぐナンバー2。

 それがフェニックスなんだそうだ。


「妾がいなくなって、図に乗っておるやもしれんな」

「確か、尊大さが鼻につくやつだって言ってたな」

「うむ。まあ、あの手の上級モンスターにはよくあることじゃがな」

「でも、もちろんツバキさんやドランさんよりは、全然弱っちいんですよね!」


 ハルコが言い終わると同時に、宙に浮く俺たちを突風が襲った。

 しかもただの風ではなく、ものすごく熱い。

 自分と、それからハルコとツバキに『包囲障壁ラウンドバリア』をかける。

 すっかり慣れたもので、展開の速度も速い。


「あちち。何ですか、一体!」

「うぬらは何者か」


 声と同時に、俺たちの頭上に巨大な影が現れた。

 陽の光を受けてよく見えないが、どうやら大きな鳥が翼を広げているようだ。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『』

種族:フェニックス SS


HP(生命力):SSS

MP(魔力):SS

ATK(攻撃力):SS

DEF(防御力):S

INT(賢さ):SS

SPD(俊敏性):SSS


固有スキル:【再生】【火属性無効】【風属性無効】【即死無効】【凍結無効】

習得スキル:【覚醒:全能力アップ大】



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 やっぱりこいつがフェニックスか。

 しかも黒龍と同じく、覚醒してる。

 ステータスがかなり高い。


 ツバキは何も答えず、一気にフェニックスと同じ高さまで飛び上がった。

 俺とハルコもそれに続く。

 日差しの位置が変わり、フェニックスの姿がはっきりしてくる。


 橙色に燃え盛る翼はとても大きいが、身体は華奢だ。

 華やかな鶏冠とさかが上品さと威厳を感じさせる。

 鋭く光る青い目が、翼の印象に反して涼しげだった。


「ほお、長生きだけが取り柄だとは思っておったが、ついに覚醒したか」

「うぬは……よもや、あの龍か」

「御明察じゃ。ぬしは妾のおらぬ間に、随分と好き勝手しておるようじゃな」

「山頂に居座っておったうぬが消えて清々しておったと言うに、出戻って来たか。今やうぬと我の力関係は逆転しておる。この山は我のものぞ!」


 どうやら、フェニックスはツバキがいなくなったことを良いことに、住処を火口付近に移していたらしい。

 覚醒によって、たしかにやつのステータスはツバキのそれよりも高い。

 うーん、なんだか複雑な気持ちだ。


「今更何しに来たか。まさか山を返せなどとは言うまいな」

「ふん、誰が。こんな山、もともと興味はない。そんなことに拘っておるから、ぬしはいつまでも二流なのじゃ」

「口の聞き方に気をつけるがよいぞ!」


 フェニックスが力強く羽ばたいた。

 さっきとは比べものにならないほどの熱風が俺たちを襲う。

 俺が『包囲障壁ラウンドバリア』を重ねがけして防ぐと、フェニックスは甲高い声で鳴いた。


「いつまでも持ち堪えられるものか!」


 熱風がついに燃え上がり、火炎の波となって押し寄せる。

 俺はさらに魔力を集中し、『包囲障壁ラウンドバリア』を重ねる。

 ウルスラとの特訓の成果を見せてやるよ。

 破れるもんなら破ってみろ。


「なに!? なぜ打ち破れん!」

「威力が足りないからに決まってるだろ!」


 バリアをまとったまま、隙を見せたフェニックスの懐に飛び込む。

 ツバキも横から回り込んでいた。

 ハルコはただただ怯えている。

 まあ、お前はそこで見ていればそれでいいんだ。


「『業火の鉄拳ブラストナックル』!」


 右手に黒炎をまとわせて、腹部を殴りつける。

 こっちもツバキに鍛えられているんだ、黒龍相手の時よりも、威力は段違いに高い。


 耐えろよ、フェニックス!



 キィィィィィィィィィイ!!!



 ひしゃげた鳴き声を上げて、フェニックスが吹っ飛ぶ。

 後方まで到達していたツバキが刀を構え、接近するフェニックスに向けて抜刀した。


「『陽炎』」


 居合斬りの要領で両断されたフェニックスは、片翼を切り落とされてゆっくりと落下した。

 すぐにその傷口が燃え上がり始め、再生が始まる。

 さすがは不死鳥。

 【再生】のスキルは伊達じゃない。


「ドラン!」

「任せろ!」


 味方にかけるのとは違う、全力の『包囲障壁《ラウンドバリア》』。

 十、二十、どんどん重ねる。

 魔力はまだまだ余裕だが、三百くらいにしておこう。

 あまりデカくなり過ぎても邪魔になるだけだし。


 魔力が凝固する音が無数に連なり、巨大な球体が出来上がっていく。

 フェニックスの悲痛な鳴き声も、もう聞こえない。

 落下する球体を急降下して追いかけ、下に潜り込んで受け止めた。


「ハルコ! 穴を開け!」

「はい!」


 ハルコの前に、球体よりも更に大きな次元のトンネルが出現した。

 そこへ向かって、フェニックスの入った球を投げる。

 少し狙いがはずれたが、タイミングを合わせて飛び込んできたツバキの蹴りが綺麗に決まり、バリアの塊はトンネルの中へ消えた。


「よし!」

「他愛もないな」


 やっぱり、この捕獲方法は最強だ。

 同じ覚醒モンスターだった黒龍の時と比べても、圧倒的に楽。

 俺の魔法も成長したし、ハルコの手際も良い。


「さあ、帰るとするぞ。ここは暑くてかなわん」

「お前、本当にここに未練はないんだな」

「そんなもの、あればぬしにはついて行っておらぬよ。場所に執着するのは、妾の性には合わん」

「やっぱり、ツバキはカッコいいなあ」

「ツバキさんカッコいいです!」

「ふん。ぬかせ」


 腕を組んでそっぽを向くツバキは、意外と満更でもなさそうだった。


 さあ、一旦帰ってロベリアに報告しないとな。

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