第二十七話 ミミック、頼り切る


 魔神軍が直面している問題。

 それは、深刻な土地不足だ。


「屋敷一帯のスペースでは、これ以上の勢力拡大は難しいじゃろう。魔物配合の流れが確立された今、必要なのはより大規模な拠点じゃ」


 魔物が増えれば、場所が減る。

 魔物を増やすには、当然ながらまず場所を増やさなければならない。


「でもどうせ拠点を変えるなら、今よりも便利な方が良いな。色んな意味で」

「例えばどういう面で、かな」

「うん。この前ロベリアが言ってたんだ。食料が足りなくなって来てるって。今は備蓄と、近隣の山々から採集してる食料で賄ってるらしいんだけど、それもすぐ追いつかなくなりそうなんだと」

「なるほどね。やはり彼女は立派だね、私達の生活の管理もやっているとは」

「ああ。ハルコのおかげでかなり楽にはなってるみたいだけど、ここは改善してやりたい」

「他には?」

「二人には前に話したと思うけど、この屋敷は人間に場所が知られてる。一度、隣国の騎士団が攻めてきたことがあるからな」

「ああ、言っておったな、そんなことも」

「周囲に存在がバレないように吹雪の結界を貼っているみたいだけど、絶対に安全とは言えない。だから、人間にバレにくくて、攻められにくい場所がいいんだ」


 そういう場所があるなら、そこに屋敷ごと移動してしまえるのが一番だ。

 そうすれば、勢力拡大も安心してできる。


「場所でなくてもいいなら、私に心当たりがあるよ」

「本当かウルスラ!」

「ああ」

「『島クジラ』じゃろう?」


 ウルスラよりも先に、ツバキが言った。


「その通り。さすがツバキだね」

「なんなんだ島クジラって? 魔物か?」

「うむ。島ほどの身体を持つクジラ型の魔物じゃ。大きさだけでなく、背中に土もあれば植物も生える。しかもこやつは」

「空を飛ぶのさ」


 今度はウルスラがツバキの言葉を遮る。


「空を飛ぶ! 凄いじゃないか島クジラ!」

「うむ。島クジラを配合で作り、そちらに移住する。ロベリアの結界も重ねれば、これほど適した環境はなかろう」

「そうだな! さっそく作り方を調べよう!」


 三人でそれぞれ、図鑑をめくる。

 ツバキは魔物図鑑、ウルスラと俺が配合図鑑だ。


「あったぞ、島クジラ。ランクはSSSじゃな。生息地は不明。やはり配合で作るしかなさそうじゃ」

「こっちもあったよ。配合素材は『フェニックス』と『ダイヤトータス』だね」

「フェニックスか。そやつなら、妾がいた火山におったぞ。尊大さが鼻につくやつじゃったわ」

「おお、ならそっちは大丈夫そうだな。ダイヤトータスってのはどこにいるんだ?」

「図鑑によれば、スカイバレーの下層じゃな」

「スカイバレーって、確かホルスを捕まえたところだよな?」

「うむ。あそこの麓には荒野があったはずじゃ。おそらくそこじゃろうな」

「なんだ、今回は案外楽そうだね」

「いや、よく見ろ」


 そう言って、ツバキはウルスラの手元にある配合図鑑のページを指差した。


「今回の配合には触媒が必要じゃ。『ミスリル』。鋼よりも硬く、羽よりも軽いとされる金属じゃな」

「なるほど、それで空を飛ぶ島クジラ、ということだね」


 触媒か……。

 素材モンスターの方はあっさり見つかりそうだけど、そっちがどうなるか、だな。


「触媒図鑑によれば、ミスリルの入手場所は不明。現存するものも数少ないようだね」

「なんだよそれ……。じゃあ作れないじゃないか、島クジラ……」

「簡単に諦めてはいけないよ、ドランくん」

「うむ。幸いこの屋敷におるのは元魔王の手下供じゃ。知っている者がおるやもしれぬ」

「な、なるほど……」

「素材集めと並行して、触媒を探すのが良いだろうね。まずは一番分かりやすそうなフェニックスからかな?」

「妾は構わんぞ」


 頼もし過ぎる二人のおかげで、話はどんどん進んでいった。

 自分が不甲斐なくなるけれど、まあ、今更気にすることでもないか。

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