第七話 ミミック、宣言される


 俺がここへ来たのには、二つの目的があった。


 一つは、自分のちからを試すため。


 この先俺がどう行動するとしても、マチルダとロベリア、あの二人は、いつ敵に回ってもおかしくはない。

 あれだけ魔王を崇拝している二人だ。

 どこぞの雑魚モンスターが魔王を消滅させたと知ったら、確実に俺を殺そうとするだろう。

 そうなった時、俺とあの二人では、果たしてどちらが強いのか。


 大体でもいい。

 俺にはそれを知っておく必要があった。


 だが、この目的は既に達成された。

 あの二人と同格のドラゴンとあれだけ戦えるなら、たぶん俺の方が、強い。


「具体的には」

「相談役になって欲しい」


 そしてもう一つは、協力者を獲得すること。


 今の俺には、分からないことが多すぎる。

 なにせ、ずっと辺鄙なダンジョンで宝箱になりすましてたわけだし。


 それに、ミミックの俺が、ミミックとして助けを求めることができる味方が、今は一人もいない。

 魔王としての俺にはマチルダとロベリアがいるが、さっきも言ったように、この二人とは常に敵対する可能性がある。

 このドラゴンなら、知識や知恵はもちろん、戦力としても大いに俺を助けてくれるだろう。

 生前の魔王を知っていて、かつ、魔王の味方ではなく、強い存在。

 それは魔王の記憶の中では、このドラゴンだけだった。


「なるほど。それで、見返りは」

「今は何もない。これから探す。不平等な取引だってことは、承知の上だよ」

「妾がそんな条件を飲む理由が、どこにあると思う」


 ドラゴンは俺を試すように、不敵に言った。

 格上相手にこの落ち着きと余裕。

 俺の人選、やっぱり完璧だろ、これは。


「お前より、俺の方が強い」


 言い放つ。

 これでダメなら、その時はその時だ。

 協力してくれるまで、殴り続けるしかない。

 半分冗談だが、半分は本気だ。


 少しの沈黙後、ドラゴンの黒い瞳がギラリと光った。

 閉じた口から炎が漏れる。


「おもしろい」

「引き受けてくれるか!」

「ひとまず、今は協力しよう。だが、興が冷めればそこで仕舞いじゃ。それ以上は譲歩せぬ」

「ありがとう。本当に助かる」


 心強い。

 これでこの先、かなり動きやすくなるぞ。


「それじゃあ、これからは時々、ここに来ることにするよ」

「いや、もっと楽な方法がある」


 ドラゴンは目を細めて、笑ったように見えた。


「楽な方法?」


 大きく翼を羽ばたかせ、ドラゴンは飛び上がった。

 一気に上昇し、雲の奥に消える。


 なんともマイペースなやつだ。


 俺も高度を上げて、雲に突っ込んだ。

 目の前が真っ白になる。

 少しすると視界が開け、大きな月と星空が見えた。


 月をバックにドラゴンの姿がほの赤く光り、揺らめいている。

 体内の熱が鱗から放出されて、陽炎になっているのだろう。


「ついて来い」


 言われるがまま、俺はさらに上昇するドラゴンを追いかけた。

 雲すらどんどん遠ざかり、まるで宇宙にいるかのようだった。


「この時間なら眠っているはずじゃ」

「なにが?」


 ドラゴンが首を示す方を見ると、小さな光が中空を漂っていた。

 【魔王の慧眼】が発動する。

 どうやら、あれも魔物らしい。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『』

種族:コスモ・フェアリー SS


HP(生命力):F

MP(魔力):SSS

ATK(攻撃力):F

DEF(防御力):F

INT(賢さ):SSS

SPD(俊敏性):F


固有スキル:【物理攻撃無効】【魔法反射】【平和主義】

習得スキル:【MP自動回復大】【状態異常無効】【全属性使用可】



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「なんだありゃ。でたらめステータスだな」

「コスモ・フェアリーはその固有スキルゆえ、通常の方法では倒すことができない。じゃが、【平和主義】のせいで攻撃してくることもない」

「なるほど。で、どうしてこいつのところに?」

「捕獲しろ」

「捕獲? なんで?」


 一応接近して、両手で優しく包む。

 本当に眠っているらしく、一切の抵抗がなかった。


「貴様に協力するためじゃ。この姿では不便じゃからな」

「それで?」

「決まっておろう」


 ドラゴンは得意げだった。


 ただこの段階で、俺にも彼女の言わんとしていることが、既に分かり始めていた。


 やっぱりドラゴンとか魔王とかいうのは、思考回路が俺たち雑魚モンスターとは、根本から違うらしい。


「妾とそやつを、配合する」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る