3

 教室の隅で弁当をひろげているのは浦川あいすと高嶋るり。

「見て見て!昨日の小テストで70点も取れた!」

「左様か。よかったな。」

「……あんたは何点なのよ。」

 100、と言うとおにぎりを詰め込んだ。

「なんでそんなにとれるのよ。」

「予習と復習をやればできる。」

「「……。」」

「ねえ。今日も探さないの?」

「目の前のことで精いっぱいだ。」

「あまり時間無いんだよね?」

「忙しい。」

 巾着からトリュフチョコを取り出し、あいすの口に押し込む。

「また後でな。」


 昇降口にて何かを待つ高嶋。

「あれ。今日は遅くなるって言ったじゃん。」

「言ってたっけな。」

 お店の並ぶ活気ある通りを歩く。

「この後、暇か?」

「特に。なんで?」

「少し寄り道してもよいか?」

 カラオケ店。

「あんたが誘うなんて珍しいね。」

「音痴なので少々恥ずかしいのだが。」


「なんで誘ったのよ……。」

「さ、やるか!」

『Caramelldansen』

「そんでまた、ずいぶん懐かしいものを。」

 あいすは頭に手をのせ招くポーズ。


 ><「1、2、9-っ!」

 1枚のピザが運び込まれた。

「ありがと。―――ってこれ、切れてないじゃん。」

「む、ならば。」

 黒いナイフを作り、小分けにする。

「相変わらずすごいんだけど、衛生的にどうなの。」

「ノープロだ。嫌なら全部食ってやる。」

「だめー!!」

 3切れほど口に突っ込む。

「ゲホッ。み、水……。」

「ばか。」

「いい加減にしないと―――おえっ。」

「ゴミ箱はそっちだぞ。」

「何のこれしき。げほ!」

「まったく。」

 ハンカチを取り出し口をぬぐってやる。


 夜の公園。人影は少ない。

「はー、のどがガラガラだよ。」

「何か飲むか?」


 自販機の前に立つ。

「んっとね、ココアがいいな。」


 ガコン。


「こんな時間まで誰かと居るの、初めてかも。」

「すまない。門限が厳しいのか?」

「あ、いや。そういうわけじゃないんだけどね。」

 ココアを飲み干すとき、夜空がいつもより輝いて見えた気がする。

「なあ。」

「なに?」

「明日は久しぶりに探索の続きをしないか?」

 少し驚いたがうなずく。

「楽しみにしてる。」

「私もだ。」


 昼になっても高嶋は登校しなかった。

(なんで?返信も来ないし……。)

「浦川さん。ちょっとそこどいてほしいんだけど。」

 弁当をかたづけ、駆け足で出ていくあいす。

「何だよ。まるで俺らが悪者みてーじゃん。」

 生徒会室前。ノックし、戸を開ける。

「そこのあなた、生徒会に何の用ですか。」

「えっと……。」

「言えないことですか。怪しいですね。」


「ごめんなさいっ。」

「待ちなさい!」

 一目散に走る。

 カップルがいちゃつく中庭のベンチ。騒ぎ声の響く体育館裏。運動部で騒がしい保健室。暗い雰囲気の相談室。

 ふと、人気ひとけのない身障者トイレの前で足を止める。


「私のゲロにそんな攻撃力があったとは。」

 大きな和室には高嶋が寝間着姿で安静にしている。

「ゲロではないだろう。……だよな?」

「ほんとにただの風邪なの?」

「心配は要らん。もう好くなってきている。」

 上半身を起こすと咳払い。

「無理しないで。」

「しかし昨日―――」

「―――ただの風邪なんでしょ?」

「……そうだな、すまない。もしよければご飯を食べていかないか?」

「いいの?」

「無理にとは言わないが。」

「いっただきまーす!」

 高嶋は微かに笑う。

「どうしたの?」


「今日、友達の家に泊まってもいい?―――うん、分かった。おやすみ。」

 湯気を振りまきながら座りなおすと肩からタオルが落ちた。

「いいって。」

「私のわがままに付き合ってもらって申し訳ないな。」


 バツの悪そうな顔をする。

「いいって、いいって。」

 火照った体でぬくぬくと布団にもぐりこむ。

「ばか、風邪がうつる。」

「あったかい。」

「ところで、部活には興味ないか?」

「あんたは何部なの?」

「演劇だ。厳しいからよしたほうがいい。」

「明日、少し見学していくか?」

「お願い。」


 グラウンド中に響く野球部の掛け声を浴びながら歩く2人。

「何か得意なことはあるのか?」

「体動かすの、好き。」

「ならば―――」

「―――運動部はカンベン。」

「何故だ。」

「暑いし、練習もきつそうじゃない。」

「では、ベタだが漫研とかはどうだ。」

「オタサーはちょっとね。いやじゃないんだけどね。」

「帰宅部しかないじゃないか!」

「えへへ。」

「む。あれはどうだろうか。」

「あれ?」

「私はあの部屋にはあまり行きたくないが。」


「話は聞いたぞ。」

 その小柄の女子生徒は校舎の4階からふわりと飛び降りるやいなや、あいすたちの腕をつかむ。


「見てもいいぞ。」

「いや、いいから!」

「ボードゲーム部へようこそ。他のやつは出払っているがな。」

 中居すみかと名乗り、部屋の真ん中にあぐらをかいた。

「これは。」

 某有名タイトルのゲームのパッケージを手に取る。

「あ、あまりむやみに触るな。」

 目をそらす高嶋。

「エロゲまで完備じゃぞ。」

「何なのこの部屋は!」

「風紀を乱すものは片づけてください!」

「堅物め。」

 いかがわしいグッズの山を端に寄せると将棋盤が現れた。


「また負けたあ。」

「大人げないぞ。」

「1コ差じゃあないか。まあまあ楽しかろ?」

「最初あんなに押してたのに。」

「まだ言うとるのか。どれ、気分転換に回し将棋でもやるか。ほれ、そこの堅物もじゃ。」

「回し将棋?」

「遊び方は一種類だけではないからの。」


「やっと勝てたよ、もう。」

「楽しかったぞ。」

「そうじゃの、キリもいいし、そろそろあがるか。」


 傷だらけの将棋盤を片すあいすに寄ってささやく。

「わしはだいたい此処におるから、飯時にでも来るとよい。」

「よろしくね。」

 先に部室を出た高嶋とあいす。

「どうする?」

「もちろん、行くよ。」


 再び夜の裏山。

「前来たときに見つけたんだ。」

 石をどけると道の脇に小さな洞窟。

「まるで隠されていたみたいだな。」

「本の読みすぎじゃない。」

「しかし危なくはないか?」

「プレハブの先は崩れてたから。」

「ううむ。」

「虎の子が欲しけりゃ虎穴に入るのよ!」

「な、その変な言い方はよせ!」

「?」

「何でもない!」


「洞窟探検って一度やってみたかったのよねー。」

「お前、まさか。」

「楽しいんだからいいじゃない。」

「何て日だ。」

「わっ!?」

 鈍い音が響く。



「大丈夫か!?」

「いたた。滑ったし何かぬめってるし。」

「嘘をついた罰でもくだったんじゃないか。」

「ひどいよ。うう、どうしよ。」

「どうかしたか?」

「いや、ちょっと。」

「ばんそうこうなら持ってるぞ。」

「何でもないから!」


「待って。段差がある。」

 深呼吸をして3mほどの崖を飛び降りる。

 高嶋も黒い足場を作って後に続く。

 その先に泉。淡い光で青く輝く。

「わあ、きれい!」

「行き止まりじゃなくて助かった。」

 泉を照らしているのは月明り。

「ひっ。」

 水をかけられ驚く。

「この水、とっても冷たい!」

 裸足になって水の中ではしゃぐあいす。

「やりおったな。」

 黒く巨大なへらを作り、構える。

「それはズルよ!ズル!」


「これだけ高いと階段は作れないな。」

 地上まで10mはある。


「はしごなら登れるか。」

 黒いはしごをかける。

「そろそろ―――何をしている?」

「かき氷だよ?知らない?」

「要らない。先に行け。」

「先行っていいよ。」

「万が一を考えるとだな。」

「お願い。」

「さっきから変だぞ。やはりケガをしたんじゃないか?」

「いや、さっき転んだ時にヘドロ踏んじゃって。」

「「履いてないの。」か。」

「「……。」」

「代わりを作ろうか?」

「いい。その能力、触覚あるんでしょ。」

「若干。」


「本当に崩れていたのか。」

 這いでた穴は道の真ん中にあり、下る方の道は途絶えている。

「お、結果オーライ?あたしの可愛いパンツが犠牲になったけど。」

「変な性癖に目覚めてくれるなよ。」

「あ、この橋見覚えがある!」

「もうすぐか。」

 開けた草むらに出た。街に向かって傾斜がついており、夜景が映画のスクリーンのように映る。

「今日はきれいな景色がいっぱいだあ。」

「宝箱をひっくり返したようだな。」


「あ、流れ星!」

 ―――☆

「お願い事した?」

「ああ。学校のみんなが元気に登校できるようにな。」

「あたしの知りたい?教えて……あげない。」


「ちょっと来てくれ。」

「見つかった!?」

「多分な。掘ってみるぞ。」

 金属製の箱が月明りを借りて挨拶する。

「やっとかあ。」

「開けるぞ。」

「うん。」





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