第30話 異常事態

「はぁ……今日もダメっすねぇ」



翌日の聞き込みも、やっぱりダメだった。

教会で色々と捜索してみたが手がかりになるものもない。何の成果も得られず、トボトボと帰って来た俺たちはニナが用意してくれた夕食を二人で食べる。メリーは部屋から出てこない。




「このまま闇雲にやっても仕方ない、それよりも問題なのはクロエと一緒にいた男が一体何者なのかだよ。彼らがなんの行動にも出ないのが不気味だけれど」



「どこかに隠れてんすかね?それとも、この村から出て行ったんすかね?」



「確信が持てない以上、迂闊に動き回っちゃ危ないかもしれないなぁ……」



なんの音沙汰もなく、聞き込み中も不審者の気配はなかった。まるで霧のように消えてしまったようだ。


なのに、何故だろう。

嫌な予感がする。



俺たちはさっさと食事を終えて、解散した。


そういえば、明日は集会だ。

その時にクリスチャンらへんに聞こう。何か知っているかもしれない。



パチパチと燃える暖炉の火を見つめながら、あちこち歩き回って疲れはてていた事もあってウトウトとし始める。


ねっむいなぁ……もう寝るか。


ベッドに足を入れた時、いきなりゴトッと壁の向こうから鈍い音がした。それからは何の音もない。


ペリグリンらへんが何か落としたのか。

ほんと、おっちょこちょいなやつだ。この間なんて、部屋の古い花瓶を落として割ってしまったし。


あともう少しで、ニナの足音がするはず。

片手に箒、片手にちりとりを握って。

彼女はジークヴァルトの領地内のことなら、何でもわかっている。さすがはロボット。


俺はベッドの中で彼女の足音を待っていたが、なかなか聞こえない。

なんだ?何か用事でもあるのか?

……まぁいいか。


夜の静寂の中で、目を瞑る。



何となく、昔の記憶が呼び戻った。

ロゼットが襲われた時の記憶。

なぜか、その時の記憶がぐるぐると脳内に居座る。



たしか……あの時も物音が。




マズイ______‼︎



ぱっとベッドから飛び起きて、部屋を出る。

そして、隣のペリグリンの部屋のドアを叩く。



「ペリグリン‼︎いるなら開けて‼︎」



応答無し。

乱暴に扉を蹴破ると、部屋には誰もいない。


やっぱり、あの時と同じか⁈

嫌な予感が当たったのか⁉︎

あのクソ神、今度は俺に何を仕掛けやがった‼︎


部屋は荒らされていない。

いや、もしかしたらトイレにでも行ってるんじゃないのか。そうだ、きっと……



どうにか事件性はないと思い込みたい俺の視界に、カーテンがひらひらと舞う窓が飛び込んできた。カーテンの一方は、無惨に千切れていた。



誰かが、侵入した……?

なら、メリーが危ない!



無意識のうちに、俺はメリーの部屋に向かう。

扉は開いていて、部屋中めちゃくちゃだ。

ベッドやら箪笥やらがひっくり返っている。

こんな重たいものがひっくり返るだなんて、そんな力を持っているのは何者だ?いや、もしかするとペリグリンが魔法を使ったのか?



背筋がゾッとする。

まずい……もしかしたら、いや……高い確率でこの屋敷内にクロエと例の男がいる。




……逃げよう。


ここで二人を助けようだなんて無茶なことして、一体何になる。こんなところで死ぬわけにはいかないんだ、俺は。

せっかく、この顔を手に入れたのに ほんの少しの正義感によって無限地獄に堕ちるのはゴメンだ。


可哀想だが、二人は見殺しだ。


俺はもう逃げる。いや、逃げるんじゃない。

これは勇気ある撤退。

そう、賢い選択だ。

俺は、俺は間違っていない‼︎



迷うことなく、俺は屋敷を出た。

真っ暗闇の中で、本館に急ぐ。


ニナやジークヴァルトに助けを求めて、俺は本館に避難しておけばいい。こんな可愛い子どもが涙目で泣き付きゃ、ジークヴァルトは怪しいがニナなら助けてくれるはず。



本館に入ろうと扉に手をかける。が、ガチャッと音が鳴るだけでビクともしない。


え、なんで……?

嘘だろ、まさか鍵がかかってるのか⁉︎


パニックになって何度も扉を叩くが、何の反応もない。


まさか、こんな夜中に外出?

いやいやいや、ジークヴァルトはともかくニナは本館にいるはず。さっきまで、俺たちのもとに夕食を運んできてくれていたし。

じゃあ、なぜ開かないんだ。



「ニナ‼︎開けて‼︎早く開けて‼︎」



クソッ‼︎開かないっ‼︎

この扉は、別館の古いドアとは違って到底 蹴り破れるような厚みじゃない。


仕方ない、近くの窓を割って入るか。

別館にいそいそ戻るよりは安全。ジークヴァルトには叱られるかもしれないが、それより命の方が大事だ。



俺は近くに転がっている重そうな石を持ち上げて、勢いよく窓ガラスに向かって_____




「人の屋敷のガラスを勝手に割るだなんて、反抗期かい?」




頭上から聞こえる、ジークヴァルトの声。

……頭上?




「な、に、やってるんですか……?」



「ハ〜イ、こんばんはぁ〜。久しぶりねぇ、可愛い坊や。んふふ、その美しさに夜の暗闇の中でも光が差してる……驚いた顔もす、て、き」



「ここからの眺めもなかなかにいいね、ジーク。村の光も綺麗だし、これで最高級ワインと美女がいたなら百点満点だよ……まぁ、そう上手くいかないのが世の常なんだがね」



「馬鹿なこと言わないでちょうだい、クリスチャン。これはあくまで仕事、そんなおちゃらけた気持ちでいられたら困るわ。それと、ジーク。貴方、ワインをメイドに持って来させるだなんて何考えているの」



「そうカッカするものじゃないよ、ロレンツァ君。いいじゃないか、可愛い愛弟子の晴れ舞台なのだから 浮かれるのもわかるよ。ジーク君。さぁ、みんなで乾杯をして活躍を見守ってあげようじゃないか」




なんで、トワルのメンバーが屋敷の屋上にいるんだ……。

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