第22話 ジークヴァルトは説明下手
「今日は予定があって一緒に遊びに行けないんだ」
「それは残念っす‼︎でも、また明日遊べるんでそん時 今日の分まで遊ぶっすよ‼︎」
翌日、俺はペレグリンに予定と言葉を濁しながら遊べないことを伝える。彼は相変わらずカッと笑って、去って行った。
いや俺だって‼︎俺だって遊びに行きたいよっ‼︎
クロエに会いに行きたいし⁈
なんなら、この屋敷も出たいよ‼︎
底意地悪いロン毛と人を薪のように殺そうとするロボメイドとか‼︎こんな屋敷、いつ殺されてもおかしくない‼︎
てか、俺はなんだって斧で殺されなきゃ行けねーんだよ!普通に殺せ!ナイフとかいくらでもあるだろ!
あー、この屋敷出たい……もう嫌だ。
最初はウキウキしながら来たけど、こんな命の危険を感じるところに住んで居たくない。
あーあ、家に帰りたいな。
あの貧乳だけどおっちょこちょいで可愛いロゼットに抱きつきたい。膝枕してもらいたい。それから、ちょこーっと意地悪して涙目になったロゼットが見たいなぁ……最近、そういうのご無沙汰だし。
そうだ、俺 凄くないか?
37歳の健全な男が、ずーっと禁欲生活って。
いや確かにこれぐらいの歳なら当たり前かもしれん。だがしかし!中身は成人男性な訳で!
もうそろそろ、アレがアレで爆発しそうなんだが!
「どうかしましたか?」
「ふぇっちょぬっふんっ⁈」
突然、背後から声をかけられて変な声が出る。
びっくりした……なんだ、ニナか。
「本日、13時出発の予定であると伝えるようにとジークヴァルト様がおっしゃっておられました」
「あ、は、はい、了解しました」
13時か、まだまだ時間があるな。
といっても、この屋敷でやることないし。
それなら、さっきペレグリンに村まで連れていって貰えばよかったか。そしたら、クロエに会いに行けただろうし。
いや、待て待て。
そういえば、今日は教会は昼過ぎからだった。
あ、ペレグリンに伝えるの忘れてた。
ま、いっか。
となると、ますますやることが無いな……
「で、私のところに来たのかな?」
「はい、暇なので」
本気で暇だった俺は、ぶらぶらとジークヴァルトの書斎に来ていた。ほんとはこいつの顔を見るのも嫌になるが、それにも増して暇。
「庭にでも出て遊べばいいものを」
「そんなこと言わず、僕に何か仕事をください。暇なんです、とても」
「はぁ……めんどくさい。君ね、子供なら子供なりにあるんじゃ無いのかな?君の父親のように蝶やら虫やらを追っかけていたりすればいいじゃないか」
誰がするか。
アルバートと一緒にするんじゃねぇよ。
というか、ジークヴァルトって長い時間書斎にいるくせにあっちの書類をチラチラ見たりこっちの書類をペラペラめくったりで特に忙しそうでもなさそうだ。
「先生は、本業はなんですか?」
「学者だよ。それもアルバートから聞かなかったのかな」
「いえ、聞きましたけれど……なんか、その、学者っぽくないっていうか、仕事してますか?」
「心外だな」
俺の言葉を受けたジークヴァルトは、深いため息をつく。
「いいかい。学者っていうのは、本来 色々な事柄を深く考えて他人が及ばない境地へ掘り下げていく人のことを言うんだよ。ビジネスとはまた違う。ある種、趣味といってもいい。まぁ、金がなければやりくりができないからこそ家庭教師をしているわけだけどね」
偉そうに学者がなんたるかを語った彼は、ふと思い出したかのようなそぶりを見せると引き出しをゴチャゴチャとかき回して二通の手紙を僕に手渡す。
「これは、君が生まれて直ぐの頃に届いた手紙だ」
宛名はジークヴァルト、送り主は不明だ。
一通目には『この子供は、その見た目に反して怪物を飼っている。この子供を止められるのはお前だけだ』と書いてある。
なんだ、これ?
ジークヴァルトの言葉から考えるに、たぶん「この子供」っていうのは俺のことだろう。
二通目には『お前の秘密を、子供は知っている。今すぐに口封じをしておかないと、お前の秘密は秘密でなくなる』と書いてある。
お前の秘密……?
意味不明だ。
一体誰が書いた?
というか、何でこんなものがジークヴァルトに送られるんだ?
「君、どうして私に預けられたか分かるかい」
手紙を読んでいると、ジークヴァルトがそんなことを言ってくる。
知るか。
「君が私にそれを聞いた時、私は悪魔的好奇心といったけれど、それは嘘じゃない。まぁ、それよりも前に、というか君が生まれてすぐに君を私が貰う話は何度かあったんだけれどね」
ん?貰う?
待て待て、貰うってなんだ?
というか、何度かあったって どういうことだ?
「さて、順を追って説明しようか。まずは、君が生まれてすぐの頃のことだ。ケヴィンが私の屋敷にやって来て、君を買わないかと言い出したんだ」
買うって、まさか人身売買か?
思いもよらない事実にゾッとする。
「彼は、ルカという子供は見目麗しく珍しい子供だからきっと研究材料になるだろうと言って売りつけに来たんだ。君が写った、家族写真まで持って来てね。確かに、写真を見ただけで君の美しさの異常さには驚いたよ。まさか、顔が整っているだけで犬を怯えさせたり周囲を照らすなんて思わなかったから」
その写真、見覚えがある。
確か、アルバートの書斎に置いてあった写真だ。
「だが、私はそれだけでこの屋敷に入れようとは思わなかったんだよ。顔が良いだけで、それが完璧とは言えないだろう?それに、君をアルバートから連れ去って売るだなんてずさんな計画だったから断ったんだ。だけれど、ケヴィンはしつこいくらいに粘って来たんだよ。金が欲しいならやる、と言っても引き下がらなくて困り果てたんだ。ただ、数ヶ月経った頃に誘いがぱたっと止んでしまったからもうその取引も忘れかけていたんだけれどね……その手紙のおかげで思い出してしまったよ」
彼が指したのは、俺の手元にある二通の手紙。
この手紙が送られて来たのは、そんなタイミングだったのか。なら、これを送ったのはケヴィンか?
「全くタチの悪いことをしてくれる、と思ってケヴィンに文句の一つや二つ言ってやったら彼は自分じゃないと言う。君を連れ去ることができなくて手紙を書くどころじゃないと嘆きながらね。なら誰だと考えているうちに、シルヴィア夫人から君の体質を調査してくれと言われてね。乗り気ではなかったけれど、興味はあったんだ。手紙をよこした犯人は一体何故君をそこまで私に預けたいのか、それがいわゆる悪魔的好奇心だよ」
そこまでいうと、喋り疲れたのかニナの淹れたコーヒーを啜って一息つく。
ってことは、この手紙を送った犯人は未だ分かっていないのか?
なら、一体誰だ?
ケヴィンが嘘をついている?しかしシルヴィアから俺を預かるようにと言って来たなら、ケヴィンがそんなことをする必要はないだろ?
俺が考えている間に、ジークヴァルトは鍵付きの引き出しを開けてゴソゴソとかき回し、そこからまた二通の手紙を取り出した。
「君がこの屋敷に来てすぐに、また手紙が届いたよ。これは……ゲームのような内容だけれど」
ゲーム?
というか、まだ手紙は続いていたのか?
それも、俺がこの屋敷に来てからも。
受け取った手紙は、先ほどの手紙と同じような用紙に同じような文字で綴られていた。
『この子供は、貴方が知っている通り完璧ではない。しかし、どれだけ問い詰めたとしても、彼は必死に隠すだろう。なぜなら、彼は貴方を狙っているからだ。貴方のうなじを、狙っているからだ』
『子供のゴミを漁れ。必ず焼け焦げた手紙があるはずだ。どうして焼いてしまったのか、お前にはわかるだろう?奴らは火を好むからだ』
グシャッと手紙にシワができた。
なんてことない、俺の手に力が入っているからだ。
この手紙の送り主は、たった1人だ。
俺がジークヴァルトに問い詰められたとき、一体どのような態度をとるかを完璧に知っている。俺が実家から届いた手紙を抜き、それを読んだ後は証拠隠滅のために燃やしていることも知っている。
それを知っているのは誰か。
こんな、俺しか知らないようなことを知っている人間離れしたやつは誰か。
答えは簡単じゃないか。
人間じゃない。
こいつは、人間じゃない。
こいつは、人を陥れ 嘲笑い それをゲームのように見ている あの忌々しい存在。
神だ。
俺を、また陥れようとした神が犯人だ。
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