第21話 覗かせる裏の顔

「なるほど、やはり君は完璧ではないな」



ジークヴァルトはそう言い放つと、小さくため息を漏らしながら俺の手を振り払い、再びベッドの淵に腰掛ける。



失敗か……?


となれば、最終手段だ。

今すぐにこの男を殺すしかない。

よし、殺そう。


幸い、この部屋には鈍器になりそうなモノや絞殺に使えそうなロープ状のモノもある。

ニナがいることが若干不安要素ではあるが、素早くこの男を殺せばチャンスはあるかもしれない。



俺が本気でジークヴァルトを殺す為の何十という枝分かれの計画を考えている時、一体何を考えているのか、彼は拍手をし始めた。



「おめでとう、ルカ。君は命拾いしたね」



「………え?」



思いもよらない言葉に、なんともマヌケな声が出た。なんだよこいつ、意味がわからん。



「君には謝らないといけないね。君を色々と試してしまったこと、そして嘘をついてしまったこと。子供相手に悪かったよ」



お前、絶対悪いと思ってねーだろ。



「さてと、君に伝えなければならないことは山ほどあるけれど……まぁ、それは明日にしよう。明日の昼は、私と共に行動するんだよ。そうすれば、君が知りたいであろうことが分かる。いいね?」



なんだ、俺をどこに連れて行く気なんだ?



ジークヴァルトの考えていることを全く理解できないが、とにかく危機的状況は免れたということは分かる。どうにか嵐は過ぎ去ったようだ。まだ、油断は出来ないが。



未だ警戒している俺をよそに、ジークヴァルトは思い出したと言わんばかりにニナの名を呼ぶ。



「ニナ、入っていいよ」



「失礼致します」



え?斧……?


部屋に入ってきたニナの手には、メイド服にはふさわしくない重々しい斧。それを無表情で手にしている姿は、夜中出くわしたら3秒でちびりそうだ。



「賭けは、クリスチャンの勝ちだ」



「かしこまりました」



彼の言葉に、ニナは斧を下ろす。



こんな物騒なものを持って、一体何に使うつもりだったんだ?斧なんて、薪割りを屋内でするわけないだろうし……。


いや待て。


おい、まさか……



「良かったね、ルカ。私が賭けに勝っていたら、今頃君はこの斧で薪のように真っ二つ。そのまま、この暖炉のエサになっていたところだよ」



背中に冷や汗が伝う。



冗談だろ……?

こいつ、俺を殺す気だったのか?



それにさっきから何なんだよ、賭けって。

知らない名前、確かクリスチャンだったか。その人物も関わっているようだが。つまりは、俺のことを俺の知らない誰かが知っているってことか?この状況も?


この状況には、何か裏があるのは分かりきっている。ジークヴァルトの背後に、そのクリスチャンとかいう人物がいることもわかっている。

俺は、少々このジークヴァルトという人物をなめてかかっていたらしい。

こいつ、何か裏の顔があるはずだ。

明日の昼にそれが分かるというのなら、いや罠である可能性は大いにあるが、それでも確かめる価値はあるな。



少なからず、彼には俺の正体の一部をバラしてしまったわけだが、それがいい方向に働いたと判断していいだろう。あの時はもうダメかと思ったが、とっさの判断は正しかったようだ。


あの時、最もしてはならないことは”ボロを出すこと”だ。嘘を嘘で塗り固めることは簡単ではあるが、後にまたカマをかけられた時に危険だ。これからのことも考え、ここらで真実を一つか二つ投じてしまったほうが安全だと判断した。


この選択により、ジークヴァルトの俺への印象は”不完全さを隠す子ども”から”生意気でズル賢い子ども”に変わっただろう。



クソッ……支配者の完璧な子ども時代を作り上げるつもりだったが、これでパァだ。


だが、ニナの持つ斧を見ていると、命が助かっただけでも良しと思ったほうがよさそうだ。いくら印象が良くても、命がなきゃ話にならないからな。



「さて、もう早く寝なさい。明日は長いよ」



ジークヴァルトに促されるがままに俺が彼の自室を出ようとした時、背後からジークヴァルトが俺の名を呼ぶ声が聞こえた。



「ルカ」



「はい、何でしょうか?」



いつも以上に愛くるしく振り返ってやる。

ここで余裕のなさを見せるだなんて、癪だ。

それに、こいつにせっかく与えた印象を変えないようにしないとな。



「いつもの胡散臭い笑顔より、先ほどの笑顔のほうがいくらかマシだ」



うるせぇっ!黙って寝てろ!


バカにするようにニマニマ笑うこの男のうざったい銀髪を刈り取ってやりたい衝動に駆られながら、俺は自室へと向かった。

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