第23話 勝利と危険

クソッ‼︎

クソッ‼︎クソッ‼︎クソッ‼︎クソッ‼︎クソッ‼︎


ニヤニヤとしたり顔で笑うヤツの声が脳内に響いて、頭を振る。


またか!またお前か!

なんでこうも執拗に___‼︎

うまく言ったと思った瞬間に、俺はいつもあいつに全てを狂わされる‼︎


手紙を引きちぎりそうになりながら、何度も浅い呼吸をして堪える。



「どうした、ルカ」



「だ、い、じょう……ぶです」



落ち着け、落ち着け!

まだ大丈夫だ!

よく読んでみろ、この手紙に書いてある通り隠し通したわけじゃない。


そうだ、そうじゃないか!


確かに隠し通そうと試みたが、俺は途中でやめて大人しく受け入れた。俺は、あいつの思う通りにはならなかった!



どうにか心を鎮め、くしゃくしゃの手紙をジークヴァルトに返す。



「すみません……少々取り乱しました」



「いや、君の気持ちもわかるよ。私もこの手紙が送られて来たとき、勢いで六人殺……喧嘩して来たから」



おい待て、いまこいつ なんつった?

六人殺したっていいかけたよな?

こいつ何者なんだよ?


っていうか、こいつが取り乱す要素ないだろ。

何故取り乱した?


そういや、「貴方のうなじ」とか「奴らは火を好む」とか意味不明なことが書いてあったけど。なんだんだ?それ。



「その手紙に書いてある通り、君が本当に私に何か隠し事をしていて それが私にとって脅威であるのだとしたら それは排除しなければならない。だから、僕は君を試させてもらった。なかなかの大芝居だっただろう?まぁ、本来なら疑いがある時点で始末していたんだけれど、ロレンツァから意見が出てね。あぁ、ロレンツァというのは私の知り合いなんだけれど。彼女は、君がこの手紙の通り私に問い詰められて隠し通そうとしたならば手紙の内容を信じるべきだが そうでなければ信用性は低いと言うから、まぁその意見を尊重して試してみたんだ」



そして、付け足すように 良かったね素直に受け止めて と笑う。このロン毛野郎……。

だが、彼の言うことは確かに当たっている。

あの時、もしも俺が隠し通そうと嘘をついていたら……俺は今頃 暖炉で灰になっていた。


なら、俺は出し抜けたのか?

あの神の思うがままではなく、抗ってみせたのか?



「そうか……そうだったのか……」



俺は、勝ったんだ。

一度でも、あの神に勝ってみせた。

異様な満足感に笑いさえこみ上げる。



「君、やっぱりどこか異常だね。なかなか見込みがありそうだよ」



そんなジークヴァルトの声は、俺には聞こえなかった。





*********






「あーあ、暇っすね〜」



普段は決まってルカと歩く村を、一人であちこちふらふらと彷徨うペレグリン。午前中で運ぶものは全て運び終えて、仕事もない。今度から副業でも始めようかなと思いながら、なんとなく立ち寄ったのは教会だった。


なんか、今日は人が少ない……。


いつもならワイワイとしているのに、と気になって扉を叩くも返事はない。



「こんっちはー、クロエさん‼︎……買い物中っすかね?」



今日はついてない、と踵を返そうとした、その時。教会の扉が、何度か乱暴に叩かれる。



「クロエさん?ちょ、ど、どうしたんすか⁉︎」



緊急事態か?

ペレグリンの問いかけには応答はなく、何度も何度も扉が叩かれ続ける。

あたりには誰もいない。助けも呼べない。



「ちょっと退いててくださいよっ‼︎」



ドガッ________‼︎


ペレグリンは風を利用して、勢いよく扉を蹴り破る。木製の古い扉はあっけなく壊され、彼が教会に入るには十分な穴が開く。



「大丈じょ、う、ぶっす………か?」



「ふーっ、ふーっ!ゔぅーーー‼︎」



教会に入ってペレグリンが最初に見たのは、扉の近くで怯えきって丸まっているメリーだ。口元には猿轡がはめられていて、目一杯に涙がたまっている。


予想だにしなかった光景に硬直する彼の前に、コツンコツンとヒールを鳴らして現れたのはクロエだ。



「あら?こんにちは、ペレグリン。今日はお昼からって言っておいたのに……」



「ク、クロエさん……これ、なんすか」



「?」



ペレグリンの言葉に首をかしげるクロエ。その瞳には光がない。バクバクと鳴る心臓を抑えながら、ペレグリンはメリーの猿轡を外してを抱き上げた。



「っ!ダメっ‼︎その子はここに置いておきなさい‼︎」



「何がダメなんすかっ‼︎こんな怯えさせて、一体この子に何したんすか‼︎」



「その子は儀式に必要なのよ、ペレグリン。早く離しなさい。これは、この村の為なの」



「儀式って一体何の____ッ⁉︎」



クロエと対峙していたペレグリンの背後から、男が背中を蹴りかかる。ドッと衝撃を受けてそのまま前方へと倒れるペレグリン。メリーを落とすまいと、どうにか抱え込む。男はペレグリンの前髪を掴み上げ、男はニヤリと笑った。



「生贄を逃すなんて、ダメじゃねぇーか」



左目から頬にかけて大きな刺青のある凶悪な顔を間近にして、ペレグリンは混乱しながらも確かに恐怖を感じた。


やばい、こいつ俺を殺す気だ……‼︎


咄嗟に身の危険を感じ、自分の周囲に暴風を吹かせる。ゴオォッと周囲を一掃させるような風が教会中に発生し、動揺した男の手から力が抜ける。その隙に、メリーを抱えたまま ペレグリンは教会から逃げ出した。



「大丈夫っすからね‼︎俺にしっかりしがみついとくんすよ‼︎」



ペレグリンの言葉に、メリーはこくんこくんと頷いてぎゅっとしがみつく。


この子を助けられるのは、俺しかいない‼︎


村を外れ、ペレグリンは山の深くにある行き慣れた屋敷を目指して遠く遠くへと駆け抜けて行った。



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