第6話 美しさだけが取り柄の俺
さて、目標が定まったならば早速そこにたどりつくための過程を設定しなければならない。
実行に必要なのは、ヒト モノ 金そして情報。
ヒトやモノを集めるには、金がいる。
今すぐ回収できるのは、情報ぐらいか。
俺は新しい情報を得るために、屋敷の地下にある書物庫に足を踏み入れた。ここもまた、カビ臭く埃っぽい。それに薄暗くてじっとりとしている。書物を保管するには最悪の環境だ。
俺が書物庫に行くのをロゼットに見つかると慌てて部屋に戻されるため、深夜にこっそりと抜け出し読書に勤しんだ。そこには、歴史書や魔導書、剣術などの図説などが置いてある。かつてスペンサー家が栄えていた頃の遺産なのか、貴重そうな書物も保管されていた。今や、人々から忘れ去られていそうだが。
膨大な量の書物を読破した結果、俺が今いる世界の情報を手に入れた。
まず、予想していた通りこの世界には魔法やゲームなどでよくある 種族などというものが存在していることが確認できた。勿論、魔法を道具に生計を立てる者の存在も確認できた。
魔法には、二種類あるらしい。
1つは、誰でも使用可能な基本魔法。照らすとか小さなモノを動かすだとかいった基本的な魔法だ。もう1つは、素質がある者しか使用できない応用魔法。基本魔法にプラスして攻撃的要素が組み込まれている。
どちらも詠唱などの手間はいらず、脳内でのイメージを必要とするらしい。
試しに、基本魔法の魔導書を参考に辺りを照らそうとしてみた。
光れ、光れ、と心の中で何度も念じながら手をかざすが一向に変化はない。何かやり方が違うのかと1人深夜の書物庫の中でうーんと思考していると、ふと神の言葉を思い出した。
『それ以外の特別な力はないよ。ただ美しさ、それだけがあんたの武器だ』
そうだ、奴はそのようなことを言っていた。それ以外の特別な力、まさかそれが指しているのはこのことか。
急いで、他の基本魔法を試してみるもことごとく使えない。やはり魔法は使えないのか。
ガックリとしたが、現状を受け止めるしかない。俺はその欠点をも埋めるほどの美貌を持っているのだ、と自身を励ました。
さて、次にすべき事は意識の低い両親と使えないメイドだ。
「ルカ、ほーら見てごらん。この花はお前への贈り物だよ」
「綺麗なお花でしょう?お父さんと2人で見つけたのよ」
「うわぁ、素敵なお花ですね!旦那様、奥様!」
ここは幼稚園か何かか?
花一輪を3人の大人が囲んで、何やら楽しそうに談笑をしている。いつかお花屋さんでもしたいねぇ、なんてアルバートが言い出して そのために節約しなくっちゃなんてマリアンヌが同意し始める。ロゼットはその会話を嬉しそうに聞きながら、花を花瓶に入れて飾り立てた。
地位や名誉などに微塵の興味もないようで自然に囲まれて暮らしたいと思っているであろう両親には悪いが、俺はそんなのごめんだ。
そんなふうに都心から離れた場所で草相手に日々を過ごしていれば、そのまま無限地獄に真っ逆さまだ。
3人とも俺を愛しているのはちゃんと分かるし、それなりに愛情を持って接してくれているのも何となく感じる。ふとした時に両親やロゼットが幸せそうにこちらを見ているのに気づくと少々申し訳ないが、それでも俺には譲れない思いがある。
アルバート、マリアンヌ、そしてロゼット。
この3人も所詮は俺の世界征服の為の駒にすぎない。俺の野望が達成されたそのときには、花屋でも八百屋でも何でもしてくれて構わないから許せ。
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