第3話 どん底からのスタート

そして、俺はめでたくイケメンに生まれ変わったわけだ。



「お加減いかがですか、坊っちゃん」



「大丈夫だけど、少し1人にしてくれないか」



「かしこまりました」



僕はベッドサイドに控えていたメイドを部屋の外へ出すと、1人深いため息をついた。

あぁ、こんなつもりじゃなかった。



ここで、状況を説明しよう。



ここは、俺、ルカの自室だ。

先ほどと同じ、あの古ぼけた部屋だ。どうやら神は、僕が目覚めるであろう場所であのようなやり取りをしていたらしい。


眼が覚めた時、どうやら俺は10日間高熱を出して眠り続けていたらしく、両親も医師ももうダメかと諦めかけていた事もありそれはそれは大いに喜ばれた。俺からしてみれば最悪な悪夢を見ていたわけで、げっそりしていたが。

それからは大事をとって、数日はこの自室で休息するように医師に言われているわけだ。



次に、僕がベルーシュ、つまりは神に与えられたルカに関する情報の一つ一つを整理しようと思う。



一つは、ルカの生まれた家についてだ。


ルカの父アルバートは、ジョバンニュ伯爵家の分家であるスペンサー家出身。そして、母マリアンヌはアルビン男爵家出身。つまりは、まぁまぁいい家の生まれのように見える。


世界征服とか割とできるんじゃ?なんて思っていた頃が俺にもありました。ええ。


伯爵とか男爵とか厳かで高級そうな感じはするが、よくよく現状を見てみれば残念ながら良いものではなさそうだ。名前だけってやつだろうか。


アルバートの生家であるスペンサー家は確かに伯爵家の分家ではあるものの、それはそれは遠い血縁であり、正直言って取って付けたようなものだ。それに、アルバート本人も三人兄弟の末っ子で発言力も弱く地位も権力も金もない。そこらへんのちょい裕福な地主の方が、よほど金持ち。


また、アルビン男爵家出身のマリアンヌは実を言えば母親はメイド。つまりは落胤。公に子どもとは認められておらず、どちらかといえば庶民寄りの生活をしていたと見える。


総合的に見て、この家は落ちぶれている。

世に言う没落貴族だった。家もボロボロで修復する金もない、メイドは元奴隷で1人だけ。



こんなので、どうやって世界征服しろってんだ!



また、ルカの親戚について。

これはさらに最悪な情報だ。


こうなったら、アルバートの遠い親戚の家に養子として出されれば少しはマシな地位を得られるかもしれないと画策したが、そんな余地がないほどに親戚には子供が多い。とり入る隙間がない。


まず目をつけたのは、親戚の中で最も地位も名誉も権力もあるジョバンニュ伯爵家。伯爵家当主のシェルフ卿には、2人の夫人と6人の子供がいる。男が2人に女が4人。世継ぎ問題もなく、どう考えても俺が入る余地はない。


次に目をつけたのは、ガブローシュ子爵家。これもまた縁遠い親戚になるのだが、ガブローシュ卿には息子がおらず4人の娘がいた。ここならと鼻息荒くなるも、長女マルアに婚約者がいるとわかり悔しくも希望を失った。次の当主はどう考えても、この婚約者だろう。


ほかの地位ある親戚もことごとくダメ。

残るは、アルバートの2人の兄のみ。

だが、長男ハロルドには、2人の娘と1人の息子が。次男ケヴィンには子供がいないが最近妻を迎えた為に、これから現れる可能性は大いにある。

それに加えて、兄弟の関係は最悪。

特に何処ぞの落胤と駆け落ち同然の結婚をしたアルバートは、兄弟から”一族の恥”扱い。臭い物に蓋をするように、地方の辺鄙で小さく荒れた土地に建つこのオンボロ屋敷に俺たちを住まわせている。



ここまでいえばわかるだろう。

俺に、世界征服なんて無理すぎる。

だが、無限地獄なんて絶対に嫌だ。

顔がいいだけで地位も名誉もないのにやってけるわけねーだろっ!と言いたいところだが、その言葉はすべて俺にブーメランのように突き刺さる。イケメンなだけで、何かができるわけなかったんだ。



俺は、俺はどうすりゃいいんだよ。

誰も助けちゃくれない、でもどうしようもない。神は俺をいたぶりたいだけなのか?これで満足か?俺が自分の言葉に唸り、苦しむ姿を見るのがそんなに楽しいのか?



そこで、ふと考えが切り替わる。

いや待てよ。本当にそうなのか?

あの意地汚い神が、こんなことのためにここまでの舞台を用意するのか?いやそんなことないはず。まだ何かあるはず。


確か、あいつは『再テストに向けて、さぁ勉強なさい』って言ってたよな。

つまり、今は勉強期間……?


そういや、贈り物は二つあったはずだ。

一つは情報、そしてもう一つは……美貌。

あいつは美しさを武器だと言った。

例えば、例えばだ。

あのベルーシュに化けた神がポンと巻物を出したように、俺の美しさが何かを発揮することができるなら……それが何かの助けになるんじゃないか?



もくもくと胸の中に渦巻く不安の中に、一筋の弱々しい光がさしはじめた。

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