名も無き考察

「この世で一番身近な『呪い』ってなんだと思う?」

「何それ、オカルト的な話?」

「違うよ。で、わかる?」

「いや、わからないけど」


「『名前』なんだって」

「へぇ」

「興味無いな……。ほら、よく昔話で得体の知れない奴に名前を教えてはいけないって言うだろう?」

「やっぱりオカルトじゃんか」

「まぁ聞けって。名前っていうのは、人を縛る一番短い『呪い』だ、ってなんかで読んだんだ」

「受け売りかよ」


「例えば、『ユウカ』って名前、どんな人物を想像する?」

「どんな?どんなって……女の子かなぁ」

「じゃあ『ユウキ』は?」

「えぇ……男?」

「ユウキって名前の女の子も大勢いるし、ユウキって名字の人もいるだろう?」

「なんだよ、さっきからまどろっこしいな」

「はは、ごめんごめん。じゃあ『ナギサ』と『シオリ』だったらどんな性格の子だと思う?」

「その二つなら……前は活発で後は物静かな子かなぁ」

「それって偏見だよね」

「なんなんだよさっきから!」


「でも、そういうことさ」

「は?」

「人間は、名前を聞くと無意識のうちにそこから連想されるイメージに当てはめるんだよ。勿論、現実じゃそういかないことも多いけど、創作の世界だと顕著だと思うんだ」

「言われてみれば……?」

「観客の興味があるうちにそのキャラクターがどんな奴かを分からせなければいけないからじゃないかと思うんだ。勿論、そいつ自身の性格や容姿も重要だけど、名前の持つイメージって大きいだろう?」

「お前がさっきしつこく聞いてきたのはそういうことか……」

「そう。それに、名前があると安心する気がしないか?言わば、名前というのは『型』みたいなものでもあると思う。型にはまらないっていうのは未知でもある。未知というのは気味が悪いものさ。そのキャラクターの性格、容姿、所属、名前。これらが揃ってやっと、個性が確立するし、観客はそのキャラクターに対して愛着を持てる。つまり、キャラクターを成り立たせる重要な要素であり、同時にキャラクターを縛る最も短い『呪い』って訳だ。名も無きモブの物語なんて、早々興味を持ってもらえない。所詮は作者にいいように使われる手先なのさ」

「……ふーん。なんとなく言いたいことは分かるけど、お前の話はやっぱりまどろっこしいな」

「相変わらずだな。まぁ、もう遅いしここまでにしよう。今日は雨が降っているから、窓を開けて寝ると風邪をひくよ」

「はいはい、いちいちうるさい奴だ」


「あ、最後にもう一つ」

「なんだ?」

「お前は自分の名前を知っているか?」

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