第3話 3ページ目 ~ストームブリンガー~

 

「今日も会えるかなぁ~」


 昨日は久し振りに会えた嬉しさで頭が真っ白になってしまったせいで話す事も出来なかった。

 まぁそれはこーちゃんも同じなんだけどね!

 さぁて今日こそはこーちゃんと感動の再会をしてみせるからね!

 しかし昨日の夜は寒かったわ。

 冬用毛布が必要だったかも。

 最近温くなってきてたから完全に油断してた。

 一昨日もう要らないからって仕舞っちゃってたのよね。

 失敗した~、お母さんもまだ必要じゃない? って言ってたのに。

 夜中に取りに行くのも面倒だったんで寒さに耐えながら寝たけどちょっとお腹を冷やしちゃった。


「お母さん言ってきまーす」


「えぇ? 香織ちゃん? その格好じゃ流石に今日は寒いわよ!」


「だいじょーぶ!!」


 こーちゃんの為なら多少の寒さなんてへっちゃらなんだから!

 あたしはそう思いながら玄関から勇んで飛び出た。


「さっぶい……、ずずっ」


 なんか体中に鳥肌が立ってきた。

 昨日はあんなに暖かかったのに何で今日はこんなに寒いのよ!

 今日は河川敷行くと風が強くて寒くて死んじゃうかも。

 それに昨日の今日だし、それに何もこんな寒い日にこーちゃんも河川敷になんか行かないわよね。


「う~ん、今日こーちゃんと会えそうなところはっと……」


 余りの寒さに垂れそうになる鼻を啜りながら今日こーちゃんと会えそうなところを考える。


 ピーン!


「あっなんか神様からの啓示が降りてきたかも。今日こーちゃんは商店街に居る予感がするわ」


 根拠は無いが何故かそんな感じがした。

 午前中から買い物客が多い商店街の中こーちゃんを探して歩く

 う~ん、この季節この格好で歩くのって変人かと思われないかしら?

 しかも昨日と同じ格好だし知り合いに見られると恥ずかしいなぁ~。

 いや正直年頃の女の子として致命傷かも。

 でもこーちゃんとの感動の再会の為なんだものそんな外聞なんかに負けてられないわ!


 ここら辺もよくこーちゃんと歩いたなぁ~。

 所々と店は変わったけど今でもこの商店街は盛況ね。

 こーちゃんとの記憶が一番残ってる所だわ。

 よく二人で幸子姉さんの所で遊んでた日々が懐かしい。

 あっ久し振りに幸子姉さんに挨拶に行こうかな?

 こーちゃんが引っ越してきたのを知ってるかもしれないし、もし知らなかったら知らせてあげないと。


 ぐぎゅるるる~。


 あっお腹痛い……。

 昨日の夜もお腹冷やしちゃったし、今日も寒い中こんな格好じゃお腹壊すのも無理無いかも

 この近くのおトイレって何処だったっけ?

 この商店街って何故か何処にも公衆トイレが無いのよね。

 知ってるお店に貸してってお願いするにも流石にこの歳で恥ずかしいし、それにそんな格好してるからだって笑われちゃうわ。

 それは一生の恥よね。


 ぐぎゅるるる~。あぁ~いたたたた。


 え~と商店街出たとこの近くにコンビニが有ったわね。

 あそこなら安心してトイレ借りれるわ。

 私はこののっぴきならない状態を打破する為に、早足でコンビニ目指して歩き出した。

 この通りを抜けたらコンビニまですぐよね。

 なんとか間に合いそうだわって、あれ?

 遠目に前から歩いてくる男の子が目に入った。


 あっ! あれはこーちゃん! やっぱり神様の思し召しね。

 今日もかっこいい……。

 何かキョロキョロしてるわね? 商店街が懐かしくて周りを見てるのかな?

 それとも私を探しているのかもしれないわね。私はここよ?

 こんな所で会えるなんて私達は運命の赤い糸で結ばれているの……。


 ぐぎゅるるるる。


 いたたたたーー! 今はそれどころじゃないわ。

 あぁ神様の意地悪! なにもこのタイミングじゃなくても良いじゃない!

 気付かれない内に回り道を……くっ、ちょっと無理そう……。

 このまままっすぐ行くしかないわ。

 こーちゃん気付かないで~! 気付いても今は話しかけないでスルーしてお願い!

 前を歩くこーちゃんに必死のテレパシーを送る。


 あっ!目が合った。


 ダメ! こーちゃんこっち見ないで。

 さっと目線を外して、早足で愛しいこーちゃんの横を泣く泣く通り過ぎた。

 こーちゃんは私に気付いたと思うけど私の必死テレパシーが通じたのか話しかけてくる事は無くスルーしてくれたようだ。


「ふ~すっきり! あと少し遅かったらやばかったわ。誰も先に入ってなくて良かった」


 誰か入ってたらアウトだったかも。

 神様ありがとう。

 こーちゃんも私のテレパシーを受けて見なかった振りをしてくれたし、これが以心伝心と言う奴ね。

 私達って繋がっているわ。

 そう言えばこーちゃんは何処に行ったんだろう?

 取りあえずお昼ご飯を食べに一回帰ろうかな。

 会った時にやばくならないようにお薬も飲んでおかないとね


「ちょっと香織ちゃん?またその格好で出掛けるの?風邪を引くわよ?」


「お母さん? 女はねやらなきゃいけない時が有るの! それが今なのよ!」


「何言ってるの香織ちゃん? 大丈夫?」


 もうお母さんたら分ってないわね。

 止めるお母さんを何とか説得して、こーちゃんの捜索を再開する。

 商店街をあちこち歩いたけど見つからなかった。

 国道に続く道を歩いている途中、車の助手席に乗っているこーちゃんを見かけた。


 運転してるのは……あれ幸子姉さん?

 久し振りに見たけど顔代わって無くない?


 最後に見たのはこーちゃんが引越しして暫く後に商店街で会って挨拶したきりよね。

 それでも10年近く前だと思うんだけどなんかそのままだわ。

 それにしてもこーちゃん朝商店街歩いてたのは幸子姉さんの家に遊び行く途中だったのかな。


 あぁ~失敗した~。


 私もあの時幸子姉さんの家に行ってればそこで会えたのに!

 お姉さんの家なら安心しておトイレも借りれただろうし、お薬も貰えたかも。

 でも、こーちゃんと幸子姉さんが一緒に車でお出かけって何処に行くんだろう?

 ううぅ、一緒に着いて行きたかった。

 でもこれは大和田不動産の前で張ってたら会えるって事ね。

 流石に徒歩じゃ車で移動しているのを追跡するのは不可能だし。


「しかし、幸子お姉さんの家見ない間にえらい事になっているわね」


 大和田不動産はこーちゃんとの楽しい記憶が一番残っている場所だったので、こーちゃんが引っ越した後は悲しくなるから滅多に近付く事はなくなっていた。

 数年前にたまたま近くに用事があった際に丁度建替え工事をしてる所を見掛け、こーちゃんとの一番思い出深かった場所が消えた事に胸が痛んだ覚えがある。

 昔はサ○エさんの花○不動産みたいな木造でガラスが障子みたいになっている引き戸の建物だった。


 一度こーちゃんがフリスビーをガラスにぶつけて割ってしまって怒られてたっけ。

 懐かしいな~。


 でも今じゃなんかパッと見はお洒落な西洋風なんだけど、よく見るとガウディ意識してるのか屋根の所がちょっとうにょうにょしてるのよね。

 それに看板も趣味が悪いし、幸子お姉さん悪徳なデザイン業者に騙されたのね。

 かわいそう。


「あ~ここ暖かい」


 私はいつ帰ってくるとも分らないこーちゃんを待っていたのだが、この寒空の下で凍えていたら運よく近くの飲食店の換気扇からお店の熱気が出ている場所を見つける事が出来た。


「しかも良い匂いがする~。これはシチューの匂いかしら。あっ揚げ物の匂いもするわ。これは唐揚げかな? なんかお腹が減ってきたかも……」


 お腹が空いて来た為、その飲食店に入りチョコレートパフェを注文した。


 ぐぎゅるるるるーー


 しまった!お腹壊してるんだった!

 パフェを美味しく頂いた後、突然の腹痛に見舞われて飲食店のトイレに篭った。

 一段落した後、暖かいココアを注文しパフェで冷えたお腹を温めた。


「大分マシになって来たけどもうちょっとここにいようかな」


 おトイレもあるしね。


 何とか落ち着いて店を出たらいつの間にか日も傾き夕日の茜色が辺りを包み込んでいた。

 大和田不動産の駐車場には車が止まってた。

 あぁこーちゃんもう帰ってきたのね? もしかして行き違いになったのかしら。

 仕方が無い…、日が暮れて寒さが尋常じゃなくなってきたし今日はもう帰ろうか。

 それに飲食店の換気扇の前で立っていたので体に色々な匂いが染み付いちゃってるし、こんな状態で会っても変な体臭の女の子と思われても嫌だわ。

 私はがっくりと肩を落として家路についた。


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*


 3月2x日(月) 曇り


今日も昨日に続き失敗しちゃったわ。(x_x)

しかも今日は乙女としてやってはいけない失敗よね本当……。

でもこーちゃんは私のテレパシーを受け取ってくれたみたいであえて見ない振りをしてくれた。

本当に私達は通じあってるわよねキャー( 〃▽〃)

折角再会出来ると思ったでしょうに、待ったをかけて本当にごめんなさい。(>人<)

明日こそ明日こそ絶対思い出の日にしましょうね!


―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*


 私は三度目の正直を"コーちゃん"に誓いながらベッドに入った。

 今日の失敗を忘れない為にも冬用毛布を出してきたし、明日は大丈夫よ!


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