第4話

這って進んだ又八の目下に現れたのは小さな水たまりだった。そこはあたりの岩の割れ目から月の光が差し込んでいて少し明るかったので水たまりはちょうど鏡のように又八を映した。腹這いになりながら水たまりに映る顔をみた又八は自分の顔は美しいと思った。喉が渇いていた又八は鏡の中の自分に口づけするように水を啜った。水たまりは深くなく水も残っていたが構わず進んだ。どれくらい進んだだろうか。水に濡れた服に砂や砂利がまとわり付き重くなったことに気づく。その頃になると洞窟はより一層狭くなっていて進むたびに体のあちこちがぶつかりこすれる。身体中が擦り傷で痛み出した。もう諦めて帰ろうとしたその時、生暖かい風が額に当たるのを感じる事ができた。かすかに風のひゅーひゅーとなる音もする。

頭を上げて前を見ることはできなかったが、もうすぐ開けた空間があるに違いないと又八は思った。汗で滑る体を懸命に引きづり進む。進むにつれて風も強くなり音も大きくなる。何やら腐った卵のような匂いもするが、目的の場所は近く伝説の美女もすぐ近くにいるはずだと又八は思った。心なしか月の明かりも入って来ている。しかしその瞬間又八は自分の頭が何かに当たるのを感じた。

「ここまできて行き止まりかよ」頭を上げることは難しかったが首を少し曲げながら前を見て確認することにした。

目の前にあったのは岩ではなくこの世のものとは思えない醜い老婆の顔だった。

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