217話 恋占いの石

「よーし祐くんこの恋占いの石やってみよ!」


「人が周りにいないしやってみるか」


 恋占いの石というのはこの地主神社の有名な願掛けの石だ。


 10メートルくらい離れた場所に2つの石があり片方の石から目を閉じたまま歩いて反対の石に無事辿り着いたら恋の願いが叶うとされているもの。


 面白いことに一度で辿り着けると恋は早く成就し、数回で辿り着けたら恋の成就は遅くなり、友達の助けを借りたら恋の成就には親友の手助けが必要になるだろうというジンクスがある。


 この石にはすごい歴史があるみたいだけど今回は省かせてもらおう。


「祐くん人が来ちゃう前に早く早く! 一瞬で終わらせちゃうんだから」


 そういうと葵は目を閉じて片方の石に手を添えた。


「若宮葵行きます!」


 そして勢いよく向かい側の石へ! ………


「あの、葵? さっきから全然進んでないよ?」


 あれだけ勢いよかったのに目を瞑って2、3歩歩いたところで生まれたばかりの子鹿のように足がプルプルしている。


「大丈夫! ちゃんと辿り着くから!」


 そうは言うがやっぱり全然するんでいない。葵ってこんな一面もあるんだ。可愛いな。


 こういうことされているとちょっとちょっかいかけたくなる。少しだけ、ほんのちょっとだけ……


 つん


「ひゃぁぁ!!」


 俺がほっぺたを軽く突くと葵はこれまで聞いたことのないような声をあげてその場にへたり込んでしまった。


「ち、ちょっと!? 今の祐くんなの? もう怖いよ〜」


 そこまでならすぐに目を開ければいいのに。なのに葵は必死に目を瞑ってついには赤ちゃんがするようにハイハイで行こうとしている。


「葵? そこまで無理しなくても目を開けてもいいし、俺が手を引こうか?」


「そ、それだけは絶対にダメ!」


 いつものように可愛らしく「うん」といかと思ったのだけど返ってきた返事はまさかのNOだった。


「だって今誰かに助けてもらったら祐くんと結ばれるのに時間かかっちゃうかもしれないもん。友達とかに手助けされなくても私は祐くんと自分の力で結ばれたいの」


「葵……」


 そんなこと言われたらやばいに決まってる。今までもすごいくらいに葵のこと好きだったのにさらに好きになってしまう。


 それと同時にそこまで思っててくれたのにあんな意地悪したことに対する半端ない罪悪感。


「ごめん葵。そこまで思ってくれてたのにあんなことして」


「ううん。いいよ。ちょっとびっくりしただけで私も大袈裟だったかもだし。そんなことより見ててよね祐くん! 絶対辿り着いてみせるから。そして行き着いた証にすごいキスしてもらうからね」


 流石に人前だからダメとは言えない。俺は精一杯応援して葵がその後たどり着いたのは5分後だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る