210話 出発です

「それじゃあ夜の8時までには帰って来るように。それを遅れた班はホテルに入らせないからそのつもりで。あと、ないとは思うけど迷子になったら早く連絡しろよ。じゃあ行ってこい!」


 先生の話が終わると共に生徒がロビーから勢いよく出発していく。そう。今日は京都の町を自由に探索できるのだ。


 あるグループはまずは嵐山から行くと言い、あるグループは金閣、銀閣と言っていた。


「さてさて祐くん。私たちも行こっか。京都の町にlet's go だよ!」


 無駄に発音のいいレッツゴーと共に俺たちもホテルを後にした。


「ふんふんふーん。祐くんと京都でデート! 京都でデート!」


「葵。これはデートじゃなくて研修だぞ」


「もうっ! そういうことは言わないの! こうして2人でいろいろ行くんだからデートって言ったデートなの!」


 そこは絶対の絶対だよと言いながら葵が最寄りのバス停までズンズンと歩いていく。


「えーとどれに乗ったらいいんだっけ」


「まず俺たちが行くのは三十三間堂だからこっちの市バスだね。後5分くらいで来るらしいよ」


「さすが祐くん。それにしてもやっぱり冬は冷えるね」


 そう言ってはぁ〜っと息を吐く葵。そう言えば今日着てる服って見るの初めてじゃないか? この姿の葵の記憶がない。


「あ、祐くん流石に気付くの早いね。そういうの嬉しい」


 何も言ってないのに俺の視線とかから俺がそんなことを考えてるって思ったのだろう葵は嬉しそうに「ねぇねぇ私どう?」と目で訴えてくる。


「すごく似合ってるよ。可愛い。そういう服も着るんだね」


「このロングコート大人っぽいでしょ! えへへ。気に入ってるの」


 そう言ってクルッとその場で1回転。うん。めっちゃ可愛い。破壊力ありすぎる。


「ってなんだか祐くん顔が赤いよ? 冬だし寒いもんね。そうだ! えいっ!」


 急に背伸びして俺の方に近づいてきたと思ったら葵はそのまま俺の両頬っぺたに手を添えた。


「祐くんの頬っぺたあったか〜い。私の手冷たいからこれで祐くんの熱も取れたかな?」


「いや大丈夫だから。でもそれより本当に葵の手冷たいな。手袋は?」


「お部屋に忘れちゃった。もう取って帰るには遅いし、今日くらいもういいかな」


「それはよくないだろ。それなら早く言ってくれればよかったのに」


 手袋を外して俺の頬っぺたにある葵の手に俺の手を重ねる。


「今日は手繋いで行動しよう。手袋一つ貸すから手袋してない方はこうしておけば大丈夫」


「祐くんって時々大胆なことするよね。そういうことするからすごいドキドキするしやっぱり大好き」


 まだ自由行動から全然時間経ってないのにすでに濃厚な時間を過ごす俺だった。

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