208話 期待してるよ
結局葵はこの売店では生八ツ橋は買わなかった。実際に清水寺の近くにある売店に行って買うそうだ。
あれだけぱくぱく試食品食べたんだから一箱くらい買った方がいいと思ったけど黙っておこう。
「よーし。それじゃあ屋上庭園行ってみない?夜風に当たりたいの」
「それなら行ってみようか。どんな感じなんだろ」
エレベーターに乗って30階建ての建物の屋上へ。
「ふぁぁ〜すごい風が涼しくて気持ちいい」
「葵が可愛い」
外に出た瞬間風が吹いて葵の髪をふわっと揺らす。浴衣姿も相まってすごくいい感じだ。
庭園の幻想的な雰囲気も浴衣とすごくマッチしている。
「けっこう広いね。祐くん、ちょっと庭園の中を歩いてみようよ」
「そうしようか。ライトアップされてて綺麗」
そしてちゃんと手を繋いで庭園の中を歩いて行く。やっぱりこういうところって安らぐなぁ。明日とかもこういうところ行くけど楽しみだ。
「ねぇ祐くん……」
そして庭園の中心に来たところで葵が歩みを止めた。
「どうした葵。何かあったの?」
俺の方を見つめて瞳をウルウルさせている。ちょっとかかとを上げて何かを欲している。
「祐くん。ここ周りに誰もいないよ?」
ドクンと心臓が跳ねる。つまりそういうことなんだろう。
「仕方ないなぁ。葵ってそんなに甘えんぼさんだったっけ?」
「そうだよ。私ってすっごく甘えんぼさんなんだから。祐くん知ってるでしょ?」
「うん。知ってるよ」
「も〜う! 意地悪しないで。ほらほら、私のことわかってるなら今何したいか分かるでしょ?」
はやくはやくと葵がぴょんぴょん跳ねながらキスを待っている。
「んっ……はっ……ふぅ。ちゅっ……」
唇と唇が触れ合う。何度もしたはずのキスなのに今日は浴衣姿とか雰囲気もいつもと違う分ドキドキする。
「祐くんっ。祐くんっ!」
そう言っていつも以上に唇を合わせてくる葵。やばい。これ以上するとただのキスじゃあなくなってしまう。
まずいまずい。止めないと。いけないところまで行ってしまう。
「あ、葵っちょっとっ」
「んっ〜!」
離そうとしようとした瞬間、腕を頭の後ろに回されて逆にもっと触れ合ってしまう。
「ふぅ……ふぅ」
ようやく唇同士を離したのは呼吸が苦しくなってからだった。頭がクラクラする。葵に魅せられて。
「なんか今日のキス凄かったね。全然止まれなかったよ」
「ほんと葵のせいで俺おかしくなりそう。いや、もうなっちゃってるけど」
「私たちの関係が一歩前に行っちゃいそうになったよ。続きしたいけど人が来ちゃったらダメだしここまでかな。でも次はこの続きしてくれるって期待してるよ?」
ぺろっと舌を出して俺の前を歩き出した葵がそんなことを言ってきた。
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