207話 生八ツ橋試会!

「祐くんその浴衣すごく似合ってるね」


「葵こそすごい可愛いよ。こういう時っていつもと違う感じがして新鮮」


 俺たちは今ホテルの1階の売店へ行こうと歩いていた。3階から客室で1、2階はマッサージだったり娯楽施設だったりがめっちゃ充実している。


 ちなみに俺たちはそこら辺の使用は禁止だとさ。当たり前だろうけど。


「こういうところのマッサージってすごいテクニック持ってるんだろうな。一回くらいされてみたい……って葵ちょっと痛い!」


「祐くんそれって私のマッサージじゃあ満足出来てないってこと? それなら今度からもっとすごいことしちゃうよ」


「違う違う! 葵のマッサージ最高だけどちょっと興味があるっていうか、そんな感じです」


 そうです。ただ興味を持っただけなんです。葵のマッサージには愛情がたっぷり入ってるから。


 って言ってて恥ずかしくてなるな。まぁそれはそれとして売店についたのでいろいろ物色してみることに。


「やっぱりお寺とかのグッズが多いね。あ、ここにも木刀あるよ。どうしようかなぁ。買っちゃおうかなぁ」


「葵。なんでそんなに木刀を欲しがる。それにさっきせっかく我慢したんだからさ。あ、生八ツ橋ある」


 売店の一角を占める八ツ橋売り場。パリッとした感じの八ツ橋もすごい好きなんだけどあんこが中に入ってるあの生八ツ橋は俺の大好物。


 昔友達が旅行のお土産ってことでくれたんだけどあの時の美味しさ、感動を俺は忘れない。なんで俺、こんなに熱く語ってるんだろ。


「祐くんこれ好きなの? 私、食べたことないんだよね。たまに雑誌とかに取り上げられることあるんだけど」


「葵、これはもうやばいから。俺の語彙力じゃ全然伝わらないだろうから、実際に食べてみて。そこに試食用があるし」


 ご自由にどうぞと書かれたタッパーの中に沢山の試食用の八ツ橋が。それも普通のやつから生八ツ橋、それもいろんな種類の餡や皮がある。


「なら私も一つ食べてみようかな。晩ご飯食べたし一つだけ一つだけ……」


 そう言って葵は生八ツ橋一つを手に取って食べた。


「……」


「あ、葵?」


 一つ食べた瞬間葵がもぐもぐしたまま動かなくなってしまった。


 そして手が動いたかと思うとその手は迷わず生八ツ橋の入ったタッパーへ。


 どんどんと葵が生八ツ橋を食べていく。その顔はとても幸せそうで止めようにも止められない。


「うーん。これすっごく美味しいね!」


 そしてようやっと手を止めたと思ったらそれはタッパーの中身が半分くらい無くなった時だった。


「葵、食べすぎじゃない?」


「えっ?」


 そしてタッパーを見た葵は絶望感溢れる顔へと変化してしまった。


「うそ……私こんなに食べちゃってた?」

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