193話 演説を終えて

「次に神子戸さんと、応援演説の方お願いします」


 そう司会の人に言われ俺たちは席を立った。まずは例によって進の応援演説だ。


「こんにちは。神子戸祐輔くんの応援演説をさせていただく風間進です。私の方からは神子戸くんの魅力についてお話しさせて頂こうと思います」


 進が話してくれることの内容は俺は知っている。


 なので俺はしっかり自分の言いたいことを頭の中で確かめる。はずだった…。


「神子戸くんにはですね、可愛い彼女がいるんですよ」


 隣で喋ってる進が訳の分からないことを言い出した。そんなセリフは打ち合わせではなかった。いや、あっても絶対却下なんだけど。


 って冷静にそんなこと考えてる暇なかった。こいつガチで何を言ってるんだ!? ここはそう言うおちゃらけた感じのことを言っていい場所じゃないぞ!?


 だからといって俺が止めるわけにもいかない。こいつ本当にどうしてくれるんだ。


「その彼女のことを心から愛していて。でも神子戸くんは彼女と同等にこの学校を愛しています! 彼ならこの学校をもっとよくしてくれてる! 文化祭の時だってそう。皆さん楽しんだでしょう生徒会ビデオの編集は神子戸くんがしたんです! みんなに文化祭を楽しんで欲しいから。寝る暇も惜しんで頑張ったんです!」


 ここまで進が語ってくれるなんて。最初の彼女持ち宣言はちょっと。いや、だいぶダメだけどそこからはすごかった。


「私は彼なら生徒会長としてしっかりやってくれると確信します! 以上です」


 最後もそうだ。「信じてます」から「確信します」になってる。


「じゃ後よろしく」


 俺にだけに聞こえる声で進はそう言うった。こうなったらもう俺も考えていたことなんて話せないじゃないか。もうぶっつけ本番。


 やってやろうじゃないか。





「祐くんおつかれさま! すごいかっこ良かったよ! もう最高だよ」


 葵はそう言ってくれてるけど俺は自分が何を言ったかもあまり覚えてない。ただ無我夢中に喋ってた。


「ただ祐くんちょっと鈴ちゃんのとこ好き過ぎじゃない? 来年入学してくる新入生にもとかって鈴ちゃんのことじゃん」


「そう言う訳でもないんだけど、まぁ確かにその時は鈴のこと考えたよ。今も必死に勉強してるんだから。やっとの思いで入学したのにつまらなかったらかわいそうだし」


「そっか〜。ちょっと嫉妬しちゃうな。鈴ちゃん祐くんにすごい愛されてるって感じで」


 俺、シスコンってこと言われてる? それはないよな?


「まぁ。それは置いておいて早く部活行こっ? みんな待ってるよ」


「そうだな。特に進にはいろいろ言いたいことがあるし」


 こうして俺たちの生徒会長選挙は終わった。明日結果が発表される。どちらが勝つかなんてもう俺にはどうでもよかった。


 佐々木さんも本気で。この人が生徒会長でも楽しい学校生活が送れるって俺は確信したから。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る