190話 良い妹

 そんなこんなあったけど俺は家に帰ってきた。鈴をおいてかなり時間が経ってしまったけど大丈夫だろうか。いや、大丈夫だろ。鈴はしっかりしてるし。


 そんなことを考えながら家に着く。(30秒くらい)


「鈴、ただいま。ってめっちゃ良い匂いがする!」


 玄関を開けた瞬間、香ばしい匂いが漂ってきた。それは肉の焼けるすごく良い匂い。


「あ、お兄ちゃん帰ってきた。その顔だとちゃんとお話できたみたいだね」


「うん…。しっかり話してきた」


 言えない。話したけどそのあとめっちゃイチャイチャしてたなんて。それも俺がイチャイチャしたいって葵に言ったなんて絶対言えるわけない。


「それで鈴が晩ご飯作ってくれたのか?」


「そうそう。最近、お兄ちゃんに任せっきりだったしね。私だって出来るんだから」


「それは知ってるけど」


 だって交代制でご飯とか作ってたんだし。お母さんが作ったご飯は仕事で忙しいから土日しか食べれないから、かなり鈴の料理は食べたと思う。


 ただ今の鈴は受験生で負担はかけたくないのに。これは反省しないといけない。葵に夢中になってて鈴のこと考えてなかった。


「ごめんな。葵の家に長い時間居て鈴にご飯作らせてしまった。今、鈴は受験生で大変な時期なのに」


「それはちょっと違うかな」


「え?」


 鈴は何を言っているのだろう。だって勉強の時間を削って俺たちのご飯を作ってくれたんだから。


「受験生だから家のことは何もしなくて良いとか、わがままを言っても許されるとかそう言うのは何か違うと思うんだよね」


 肉を焼いていたフライパンの火を止め、俺の方へやってきた。身長、年齢、全部俺の方が上なのになんで鈴はこうも大きく見えるんだろう。


「だってお兄ちゃんだってそうだったでしょ。しっかり家事とかもこなしてたし、私まだあんまり料理とか出来ないから私よりもっと頑張ってくれてたんだから、これくらいで受験失敗しちゃうなら私の努力不足だよ」


 そういうとクルッと身を翻して出来上がった生姜焼きを皿に盛っていく。


 美味しそうな生姜焼きが盛られていくが俺は鈴から目が離せなかった。


「どうしたの? お兄ちゃん。運ぶの手伝って欲しんだけど。…お兄ちゃん?」


「鈴って何回も思わせられるんだけど俺より完璧に大人だよな」


「そんなことないよ。私はお兄ちゃんの真似をしてるだけだもん。お兄ちゃんが頑張ってきたことを私もしてるの。だから当たり前だけどお兄ちゃんの方が大人だよ。カッコいい私のお兄ちゃん」


 本当に俺は鈴みたいな立派なことをしていたんだろうか。でも鈴にそう言われたのは本当に嬉しかった。

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