174話 自分から

 今の時間は6時30分過ぎ。セットした時間より、30分遅く起きた。目覚ましは鳴ったのか。俺が無意識のうちに止めてしまったか。


「ふふふ。それはね?」


 なんか葵がしたことが分かった気がする。この葵の感じからしてそうだな。


「おばあちゃんが起きた時に私も起こして貰って、祐くんの目覚ましを止めちゃいました!」


「やっぱりか! 鳴ったの感じもしなかったし寝る前に何かおばあちゃんと喋ってると思ったら!」


 策士葵。昨日の時点でここまで準備していたとは。本気になったら葵って無敵なんじゃ?


「それで何時に起きたんだ?」


「6時前だよ。そここらしっかり目覚まし止めてね。祐くん6時になっても起きないから約束通りキスしちゃいました」


 グーとサムズアップ。


「それじゃあ続きを…」


 ほっぺに手を当てて葵が俺の顔に近づいてくる。


「ちょ! ちょっとストップ!」


「どうしたの?」


 唇と唇が触れ合う寸前で俺はストップを要求した。葵は不服そうだったけど体を起こしてくれた。


「もうたくさんしたんだろ? もういいんじゃ…?」


「そういえばさ、私が祐くんにキスしてたら祐くん寝てるはずなのに何故かすっごいにやけ顔になっちゃってね。チュッてするたびにすごい笑顔になるの」


「くっ」


 あの夢っていうか感触はやっぱり葵だったのか。幸せな感じになれると思ったら。


「祐くんどうだった?」


 ズイズイと俺のまた俺の方へと近づいてくる。


「あの…その…はいめっちゃ良かったです。なんかめっちゃ気持ち良かった」


「そうやって言ってくれると嬉しいな。それじゃあもう一回しよ? 寝てる祐くんにキスするのも良かったけど、やっぱり目を合わせて一緒の気持ちでしたい」


 そうやって言われたら嫌って言えない。いや、そうやって言われなくても嫌なんて思わなかった。俺だってしたい。


「そうだよな。俺も恥ずかしがらずにもっと素直になれたらいいんだけど」


 恥ずかしくて葵のスキンシップに待ったをかけてしまう。


「んーん。そんなこと全然問題ないよ。祐くんが私のこと好きでいてくれたらそれだけでいいの」


「そうなの?」


 葵がいろいろしてくれるのに申し訳ないって感じもある。


「そうなの。だって思い出して。祐くんたくさん私にしてくれたでしょ。きっかけは私からがちょっと多いかもしれないけど、祐くんからだってキスしてくれてるし、ほらこのペンダントとかね。これだけ幸せ貰ってるんだから祐くんが何か気にする事はないよ」


「ありがとう葵。なら今は俺からキスさせて」


 俺は起き上がり、さっき葵がしたようにほっぺに手を当てて葵と目を合わせて軽くキスした。



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