172話 再確認

「葵って引っ越すの言われてなかったんだろ?」


「うん。お父さんたち準備はしてたみたいだけど私にはわからなかったの。ただ片付けてるのかなって。じゃないとあの試合、大会どんな気持ちで出ればいいか分からないよ」


 確かにそうだ。もし、俺が葵が引っ越すこと知ってたら、多分俺は投げることは出来なかっただろう。


 葵は俺の心の大部分を占めそれがポッカリとなくなってしまうのだから。実際、葵がいなくなってからしばらくは何も手に付かない状態だったし。


「でも、私は寂しかったけど少し離れて良かったと思ってるんだよね」


「俺もなんとなくそんなこと思うよ。もちろんずっと一緒にいても楽しかったとは思うけどね」


 あのまま一緒にいれば俺は小学生の時のようにあんまり勉強せず、葵や周囲に甘えていつのまにか葵と肩を並べていることが出来なくなっていたかも知れない。


 もしもの話だから分からないけどそんな感じもしてる。葵の居ない4年間が俺を頑張らせた。あのままじゃ絶対にダメだとあの時思ったんだ。


「なぁ葵。俺があの小学生のまま勉強出来なかったらがっかりだった?」


「うーん。わかんないや。小学生の時も本気で好きだったしそれは別に勉強が出来るから好きとか、出来ないからダメとかじゃなくて…なんて言えばいいのかな。とにかく祐くんが好きなの! 今も昔も」


「そ、そっか。ありがとうな葵」


 そんなこと言われて嬉しくないわけがない。ただ言われてみればそうだった。とにかく葵が好き。それだけだ。葵が可愛いからとかそういう理由で好きになったんじゃないんだから。


「でも今だからそうやって言えるんだよね。いくらまた会うって約束してもあの時はずっと会いたい、お話したいキャッチボールしたいってずっと思ってたもん」


 俺だってそうだった。約束したとは言っても絶対また会える確証なんてなかった。


「もう絶対私は祐くんから離れないからね。何回も言っておくから。この試合見て離れ離れだった時のこと思い出したよ。確かにステップアップできた期間だったけど、これだけ祐くんの温もり知っちゃったらだめ。これからも頑張るから一緒にいて」


 本当、葵って何回でも最高で可愛いって思える人だ。


「もちろん俺だって離れたくない。俺の方からも一緒にいてください」


「祐くん…」


「葵…」


「おばあちゃんは2人の姿見て泣きそうだよ」


「「!!」」


 すっかりおばあちゃんの存在忘れてた。危ない危ない。このままだったらキスとかしてしまってたぞ。おばあちゃん、まじでナイス。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る