171話 あの試合

 俺たちのベンチの後ろ。一塁側から撮られたビデオ。試合前の集合から撮られていた。球場はお馴染みのコダマスタジアム。


 ベンチ前で仲良くキャッチボールする俺と葵。その姿に緊張してるって感じはない。決勝戦前なのに本当どんな神経してたんだろう。


「この頃からやっぱり葵ちゃんって祐輔くんにべったりね」


「そうだよ〜。だって告白してないけど大好きだったもんね」


「大好きだったなら告白しなかったの?」


「小学生の時ってみんな付き合う感じじゃなかったし、付き合ってる人とかも軽い感じだったからいやだったの。告白するなら中学生からかなって」


 もはや試合そっちのけで2人はお喋りに夢中。もっとこっち見ようよ。そういう話ってめっちゃ照れるんだけど。


「でも中学で告白することはできなかったけどね…」


 そうだ。この試合の次の日に引っ越してしまったから…中学生の時、一緒には居られなかった。


「ほらほらそんな気分落ち込ませないで。葵の打席だよ」


 そうやって見るとやっぱり覚えてるもんだな。この打席葵センター前ヒット打ったんだっけ。


 カキーン!


「見てみて! 私、綺麗なセンター前ヒット! この時追い込まれてて、アウトコースのボールを巧く打ったんだよ!」


 そう自慢げに語る葵はめっちゃ笑顔で振り返る。ほらほら私を褒めろという感じの目線だ。


「よしよし。よく打ったよ。この後連打で1点取ったんだもんな。ナイス葵」


 頭をよしよしと撫でれば葵は満足なのかまた正面を向いて試合を観る。


 そこからずっと3人で試合を見てついに最終回の7回裏。マウンドにで会話する俺と葵はとても楽しそうで疲れた様子とかは全くなく、やっぱり緊張感も感じさせない。


 でも実際には最終回、抑えたら終わりでこの暑さ。めっちゃ疲れてたし、緊張もしてた。


「祐くんさこの時みんなに緊張とか体力限界だったの隠してたでしょ。どれだけ隠してもボールが祐くんの気持ち語ってたよ」


 さすが葵。あの頃から全部お見通しだったなんてボールが語ってたってどれだけ俺の投げた球は感情籠もったるんだよ。


「ほらね。気の抜けた球投げてるから打たれちゃったでしょ?」


 なかなかに厳しいお言葉。でも実際そうだったから何も言えない。


「ここで葵がもう一回声をかけてくれたから踏ん張れたんだよな」


 その後はしっかり抑えて見事に勝利した。マウンドにみんなが集まって揉みくちゃ状態。


「ふぅ終わったね。ナイスゲームだった。本当だったら次の日とかみんなで打ち上げ行ったり、遊びに行ったり出来たのに…」


 実際は葵は引越し、打ち上げや6年生の夏を葵と過ごすことは出来なかった。


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