169話 理由とは
「ここに来て欲しかったって?」
「それはねー」
何か重大なことでもあったのか? 葵何を言おうとしてるんだろう。
「さっき言った通り、祐くんと星を見たかっただけだよ」
「え?」
本当にそれだけ? もっと言いたいこととかあったんじゃ?
「こうやって意識して星を見ることってなかったでしょ?」
「そういうことか。確かに俺たちの住んでる場所じゃそんなに見えないしな」
最近では全国的に都市化がすすみ、夜中になっても看板やネオン、街灯などの街明かりが消えることが無くなっている。
さらに、大気汚染の進行によって街明かりが大気中に乱反射するようになり、夜空が明るくなる地域が増殖中らしい。
星の光はとても弱く繊細なので、街明かりに容易にかき消されてしまう。
映画やドラマのワンシーンで、都会の夜空に満天の星空が広がっているカットがあるが、あんなシーンは実在しないのが現実だ。
でもここは違った。雨戸まで締めているので玄関の明かりが弱く入ってくるくらいで周囲に街灯なんかもない。
そのおかげか星が綺麗に見えた。一等星はもちろん、三等星とかも。空気が澄んでいることも理由かもしれないな。
「織姫さまと彦星さまってどこにいるのかな」
「あれって七夕のやつじゃ?」
確かそうだったよね。7月7日にだけ会えるという。
「あれって夫婦なんだよ。祐くん知ってる?」
「知ってるよ。かなりラブラブで仕事しなくなったから、神さま怒って天の川で分けたんだろ?」
適当に言ったけどそんなもんだったような。違ったら教えてほしい。
「私たちもイチャイチャたくさんしてたら別々にされちゃうのかな」
それはないと思うけど、そんなことを真面目に考えるのが葵なんだよな。
「もう大丈夫だって。俺たちはもう一生分の離れ離れの時間を過ごしたんだから何したって離れないよ」
「うんっ。そうだよね」
そういう葵の肩が少しだけ震えてる。後ろから抱きしめてる感じだし、暗いので葵の顔はよく見えない。
そんな中、ぽつぽつと葵が語り出した。
「本当はね、おじいちゃんのことが心配なんだ。心配ないよって言われても心配で心配で…」
そうだったのか。これが葵が言いたかったことだろう。わざわざこんなところに隠れて。星を見たいものあったんだろうけど。
「葵は優しいな。葵がこんなに思ってるんだからおじいちゃんも大丈夫」
「うん。そうだよね。私が信じないとっ」
俺はそう言う葵の頭をゆっくり優しく撫でた。
いつの間にか葵の震えは無くなっていて振り返った葵の顔はあまり見えなかったけどとっても可愛い笑顔だった。
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