158話 大丈夫だよ

「あー歌った歌った! すごい楽しかったね」


「うん。すごい楽しかったけど声がやばい」


 3時間ぶっ通しで歌ってしまったので喉がアウト。少しガラガラ声になってしまった。すごい違和感。


「祐くんいつも冷静で声たくさん出すことないもんね。これからもたくさんカラオケとか行きたいから鍛えておいてね」


 楽しかったし、また行きたいとめっちゃ思う。なら少し練習とかもしといた方がいいかな。


「祐くん、今の時間もう寒くなったね」


 3時間歌ったので今は5時を少し過ぎたくらいだ。冬に近づくこの時期は夕方から寒くなっていく。


「そうだね。今から冬が来て。春が来て。ハードボールの全国大会予選も後2回。頑張らないと」


「もちろん。ただね、少し不安があるの…」


 歩みを止め葵は俯く。なにがあった? 葵がそんな感じだと俺まで不安になる。


 俺は葵が不安な気持ちを持ってるのに気付けなかった? 俺は葵のなにを見ていた。


「大丈夫だよ祐くん。これはたぶん祐くんも持ってる不安だと思う」


「え?」


 俺の考えをわかっているような感じで優しくそう言う。どういうことだろう。


「あと2回チャンスがあるでしょう? それで私たちが約束を果たせるかどうか不安で」


 それは俺にもあった。俺のせいで一回のチャンスを無駄にして。あと2回のチャンスで全国大会にいけるかどうか。


 強豪の広明高校や他の高校だって力を付ける。俺たちが夢を掴めるか。俺たちみんなの夢が叶うだろうか。


「確かに不安になるよね。あんまり考えないようにしてたけど」


「私たちならできるって思っててもね。ってごめんね。こんなこと言っちゃって…」


「前にもこんな話したけどさ。俺たちが信じて頑張れば大丈夫だ」


「えっ祐くん…?」


 俺はそのまま葵を抱きしめた。あんまり俺はしない人前ではあるけれど。

 

「大丈夫葵。不安になるのは分かるけどそんな気持ち捨てていい。せっかく彼氏の俺といるんだから。葵が不安なら俺でそんな気持ち吹っ飛ばしてやる」


「ゆ、祐くんっ」


 葵も抱き返してくれた。もう大丈夫。葵が不安なことを考える暇がないくらいにしてあげたい。言ってて恥ずかしいけど。


「祐くんも不安があるんでしょう?」


「少しだけだよ」


「なら祐くんは私に夢中にさせて他のこと考えられないようにしちゃうんだから」


「それなら俺はもう葵に夢中だよ」


 いつだって葵のこと考えてる。どんなことしたら喜んでくれるかなとか。


「んーん。少し不安があるってことは私がまだまだだったから。だからもっとイチャイチャしちゃいます」


 ただのカラオケの帰りなのにすごいことになってしまった。

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