116話 病院で(2)

「試合なら棄権したよ」


「え?」


 葵の言ってることがよく分からない。ハードボールは8人や7人で出てもルール上は問題ない。ただ守備の時守る人が少なくなって不利にはなるけど。


「なんて言った?」


 聞き間違いだろうと俺は考えもう一度葵に聞き直す。俺が倒れたとしても試合は続行されるはず。まぁかなり大会関係者さんには迷惑をかけただろうけど。本当に申し訳ない。


 そしてさっきの試合は勝ってたはず。あのままやっていれば勝てたかもしれないのに。


「私たちは祐くんが病院に搬送された後球審の人に言って棄権したの。だからこの大会で私たちが全国大会には行けないの」


 きっぱりと葵は俺に言った。でも俺はその言葉を信じれなかった。だって俺がいなくても他にもピッチャーとして投げれるやつはいるから。


「なんでそんなことしたんだ? 先生がそう言ったのか?」


「ううん。すぐにみんながそう言ったの。先生、祐くんと救急車乗ったけど他のみんなも早く祐くんを見に行きたい。明日もう祐くんが来れないなら今回の大会は諦めるって。祐くん以外がマウンドに立つのは俺らは考えれないって」


「バカじゃないのか!」


 俺は自分を心配してくれた仲間に対して言ってはいけない言葉を発してしまった。でもこうでもしてないと俺がやってられなくて…


「なんでそんなことしたんだよ! 今日のためにこの夏だって練習頑張ってきたじゃないか…絶対全国大会行くんだって…なんでその道を自分から捨てたんだよ…バカやろう…」


「バカは祐くんだよ!!」


 葵は俺の手を痛いほど握り締めて強い声で言った。普段いつもニコニコしていてくれている葵が怒っている。目には涙が溜まっていた。


「祐くん、水分はしっかり取りましょうって何回も言われたよね。なくなっちゃったのは仕方ないけどもっと危機感持ってよ。熱中症って怖いんだよ!? 亡くなった人もいる。軽く見ちゃダメなの! 本当に私怖かったんだよ…祐くんこのまま目覚さなかったらとか考えちゃって…」


 確かに俺は熱中症を軽視してた。ちょっと具合が悪くなるくらいだろうって。他人事として今まで考えてたからこんなことになってしまった。


 でも俺は…試合には出て欲しかった…勝ち負けはどっちでもいい。今年の夏、練習を頑張ってきたのを俺のせいで無駄にして欲しくはなかった。


「それに…それに進くんたちは言ってた。俺たちの約束を1人でもかけた状態でもし果たしても全然嬉しくないって。私もそう。もし全国大会行けるなら…決勝戦で勝ってマウンドに集まるなら…その時は祐くんに思いっきり抱きつきたい」


 俺は何を考えてたんだろう。俺だって1人でもかけた状態で勝っても嬉しくない。この9人。いや、マネージャーさんや先生みんなで俺たちのチーム。


「ごめん…本当にごめん。俺の考えが浅はかだった。大切な全国大会予選を俺のせいで無駄にしてしまった。本当にみんなにはなんて謝罪したらいいか…他のいろんな人にも迷惑かけたし」


「それは簡単じゃないかな?」


 葵にさっきの感じはなくすごく優しく俺の手を握ってくれた。


「祐くんが元気になってまたマウンドに戻ってきてくれればみんなはそれだけで充分だよ。そして次こそは行こうね」


「葵…」


 葵は俺をそっと俺を抱きしめくれた。


 この時俺はまだこの後に待ち受けることを知らなかった。



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