117話 病院で(3)

「それでさ、祐くん。私に。ううん。私たちに隠してることない?」


「え?」


 もちろん隠してることなんてない。浮気もしてない。当たり前だけど。


 いや、私じゃなくて私たちって言い換えたってことは葵にってことじゃない? ハードボール部ってことか?


 でもそんなことしてない。部費をこっそりどうにかしたとか不祥事とかそんなのあるわけがない。


「分かってないみたいだね。祐くん。でもちゃんと考えたら分かるはずだよ。隠してること。私もびっくりしたんだから」


 優しく言ってるように見えて目がかなり怖い。凄みがある。静かに怒ってる感じがする。隠しごとなんてしてないので葵に応えられない。


「ごめん葵。本当にわからないんだ。こうやって熱中症になったのに我慢してしまったことくらいしか隠し事をみんなにした覚えはないんだ」


「そうだよね。ならこれはどういうことなのかな?」


 俺の目の前に出されたのは一枚の紙。見てみると診断書と書かれてる。あれ? これってまさか…


「ごめんね祐くん。救急車が来て身分を証明するのもがいるって言われて祐くんのバッグの中少し探させてもらったら出てきたの。人のバッグ漁るのいけないんだけど今回はそこは許してね」


「え? まさか見た? これ…」


 葵は頷いた。ということは葵だけじゃなくて他のみんなも知ってるんだろう。


「これは…その隠してたとかじゃないし。これは自分のことじゃん」


 書いてある内容はこうだ。まず、葵が出した紙は俺の診断書。夏休みの序盤に病院に行った時にもらった。ファイルに入れて置いたので身分証を探すときにでも見えたんだろう。


 そして診断結果は肩関節の炎症。全治約1カ月。ようは肩の使いすぎ、投げすぎ。安静にしてたらすぐに治るらしい。


 ただ安静にできるはずもなくこの夏はかなり投げてしまった。病院にはあれ以降行ってないけど悪化した気がする。


「確かにこれは祐くんの問題だよ…でも私たち仲間だよね? 今回の時もそう。仲間ならこういう時隠したりせずにみんなに相談とかするべきだったんじゃないかな? 棄権した理由にはそれも入ってる」


「葵…」


 何も言えない。


「それに私は祐くんが怪我してまでハードボールしたいなんて思ってない! なんで隠してたの? 

 この夏、祐くんが苦しんで私とキャッチボールしてたなんて…そう思ったら私…私…」


「違うんだ葵。確かにみんなに言わなかったのは俺が悪い。でも葵とキャッチボールするとかに苦しいなんて思ったことはこの夏もだし今までで一度もない。いつも楽しい。それにちょっと違和感があっただけで痛いとかじゃなかったから苦しんだとか思わないで欲しい」


 俺の話を真剣に聞いてくれた葵。そして言ってくれた。


「分かった。私はわかったから、あとは進くんたちにちゃんと言ってね。それと今後祐くんは怪我が治るまでは部活禁止ね。肩を使う運動とかは絶対ダメ。私が四六時中見てるから。と言うことで夏休み終わってももう祐くんの家にいるからね。祐くんのお母さんたちもそうしてって言ってたしね」


 いつのまにか決まった俺の休部。でもちゃんと治さないといけないのでここはそうさせてもらいたい。


 ただ葵の監視します的発言にはかなり私情が入ってると思うのだが。







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