98話 打ち上げ花火
「これ美味しい!祐くんにもあげる。あーん」
「ちょっ! こんな人前で」
「そんなの気にしない気にしない。はいっ!」
屋台で買った食べ物とかを設営されたテーブルもあったけど人が多すぎたのでやめて、階段に座って食べる。通行人とかももう落ち着いていてこの辺りは人が少ない。それはいいとしてただ買いすぎた。たこ焼き、りんご飴、ポップコーン、焼きそば、綿飴その他もろもろ。
家族連れならまだしも俺たち2人でことの量はかなり多い。食べられるか心配。
そして今、葵にあーんされた。それもポップコーンを。一瞬葵の指まで食べてしまいそうになる。こういうのは箸とかを使うものをあーんして欲しい。
だいたい、あーんも嬉しいし良いんだけどまだこんな人前じゃ慣れない。噴水の前でキスしたときは人、そんなに多くなかったし。でも今回は別。人がぎっしりいる中でこれは…かなり目線を感じる。人は少ないはずなのに。
「なら、俺もお返しだ!」
そう言って俺はあつあつのたこ焼きを爪楊枝にさして葵の口元へ持っていく。
「祐くんふーふーしてっ」
「え?」
そういうともう一本の爪楊枝を持ってぷすりとたこ焼きにさすとフーフーと息を吹きかけて俺の口元に差し出した。
食べるとちょうどいい熱さまで冷まされていて食べやすかった。
「これがふーふーだよ」
「いや、分かってるよ!?」
分かるけどこれは難易度が高い。まだそんなことしたことないし…人前だし。あーんだけでもなんとかできるようになったのにもう次の段階までレベルアップ。
「祐くんのままじゃ私嬉しいけど熱くて口の中やけどしちゃそう。祐くんがふーふーしてくれると嬉しいな」
俺は仕方なくそうに、でも内心はドキドキもありながら2、3回フーフーすると葵の口元へ再度もっていった。
そしてパクッと食べてくれた。でも今思ったけど2、3回フーフーしたって大して熱さは変わらないのでは?と。いや、考えてやめた。こういうのに1番大切なのは気持ち。だと思う。ただ葵にあーんされたのも嬉しかったけど何故かフーフーが入るともっと嬉しかった。それが大事なんだと思う。
「祐くんもう一個欲しいな」
「オッケー」
もう一回フーフーしてあげると葵は嬉しそうに食べてくれた。
俺が幸せな感じになっていたその時。パァーン!と大きな音が鳴った。
「祐くん、花火! 花火!」
始まった花火大会。次々と大きな花火が上がっていく。どこからか「玉屋ぁ!」「鍵屋ぁ!」と言ってる人の声も聞こえる。
「きれいだ。めっちゃきれい。久しぶりに見たけど花火ってすごいな」
「ほんとだね。テレビで見るより断然きれい」
うん。と返事をしたが俺は花火よりも花火に照らされた葵の横顔から目が離せなかった。すごく可愛くてとてもいい笑顔をしていたから。
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