88話 Happy Birthday (6)
とにかく俺たちは電車に乗った。三駅くらいしか離れていないのですごく遠いわけでもない。でも今から行くところはたぶん葵は知らないと思う。
「祐くんどこに連れて行ってくれるの?」
「それは内緒。でも良いところだよ」
程なくして目的の駅に着いた。確か駅を出て10分くらいの場所なんだけど…まだ日が明るいから時間を潰したい。
そういうこともあるだろうとちゃんと調べておいて良かった。俺は葵の手を引いて一軒の喫茶店にやってきた。
中に入るととても落ち着いた雰囲気でクーラーが効いていて涼しくて気持ちいい。店内には俺たち以外の客はおらずなんだか貸し切りみたいだ。
「祐くん、ここが今日の目的地なの?」
「いいや。ここじゃないよ。もうちょっとしたら目的の場所に移動するつもり」
そのあとマスターに注文をしてゆったりとしたひと時を過ごした。俺が頼んだのは紅茶のアールグレイ。葵はオレンジジュースをだった。
「こういう落ち着いた雰囲気もいいね、祐くん。よく行ってるの?こういうところ」
「いいや、今日初めて来たよ。葵と出かける時のためにいろいろ調べてたんだ」
「そうなんだ。なら今度私が調べた場所にも行こうね」
「そうだね。なら俺も期待して待ってるからね」
そのあとも葵と今日の部活のことだったり夏の行きたい場所だったりを喋っていた。本当に話の内容が尽きることがない。それで喋っていて楽しい。
「よし、そろそろいい時間になったし出ようか」
俺はマスターのいるところまで行ってお金を出そうとする。2人合わせて560円。ここは俺が出すべきだったのに。
「ダメ!しっかり私の分は払うんだから!」
「ダメなのは葵だ!今日は俺が払うんだ!」
口論になっていた。俺が葵の分も払おうとしたらこうなってしまった。今日は葵が主役なんだからそんなことをしなくてもいいのに。
「ならこういうのはどうでしょう」
ここでマスターが俺たちの会話に入ってきた。
「今日は彼氏さんにお任せしましょう」
「それじゃ私が納得いかないです!」
葵がマスターの意見に反対する。しかし、マスターの意見には続きがあるようで。
「先ほどの会話を少し聞いてしまったのですが、今度は彼女さんが彼氏さんをどこかに連れて行ってあげるとか。その時は彼女さんが出してあげる。これでどうでしょう?」
「なるほど。それはいいですね。なら今回は祐くんに任せます」
俺は任されました。マスターナイスだ。とにかくこの場は落ち着いた。
「でも」
ここで俺の方をジッと見て葵が言ってきた。
「次私と出掛けた時この話は忘れたからとか、俺の分は払うとか、ワリカンだとかいうのは禁止ね」
おいおいおい。俺の考えてたことが全て読まれている。俺が次出掛けたときに言おうと思ったこと全てを禁止されてしまった。
「祐くんの考えてることなんて丸わかりだもん」
「分かったよ。次は葵にお願いするから」
「それでいいんだよ祐くん。私は祐くんを財布と思ってるわけじゃないんだから」
「ありがと、葵」
そしてマスターにニッコリされながら会計を終えた。
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