87話 Happy Birthday (5)

 時は過ぎて今はもう葵と出かける時間になった。まず向かうのは最寄りの駅。最初した遊園地デートとは違って、今日は最初から2人で駅に向かう。


 夏の5時はまだ明るくて暑い。仕事帰りのサラリーマンも見かける。ちゃんとプレデントも持ってきたし準備はオッケー。


 しばらくして駅前に着いた。電車の時間まではまだ時間がある。


「そういえばちょっと前にここで私、祐くんに告白されたんだっけ」


 そういえばそうだった。俺が葵には俺じゃない他に好きな人がいると思って。それでも葵のことを諦められなくって。それで自分の気持ちを伝えてたら、葵も俺のことを好きでいてくれた。


「あの時は本当に嬉しかったな。私のことを好きって言ってくれて。今でも思い出せるよ。俺は葵のことが好きだってね」


「それは恥ずかしいからやめて〜」


「ふふふ。祐くんっていつもはかっこいいのにやっぱりこういうときはすぐ照れちゃうよね」


 それは仕方ないと思う。だってそういうのはされたらすごいドキドキするし。


「そういえば葵、あの時俺に、自分から言おうとしてたって言ってたけど、何て言ってくれるつもりだったんだ?」


「ふふふ。祐くん聞きたい?」


「うん。ちょっと聞いてみたいかも」


 葵は俺に何て言ってくれるつもりだったんだろう。ドキドキする俺は葵の発言にびっくりしてしまった。


「忘れちゃったえへっ」


 首を傾げながらコツンとグーを作って頭に当てた葵。


「あの時祐くんに告白されてから私の考えてたセリフが頭から飛んじゃって。祐くん好きですとか言おうとしてはとは思うんだけど...今思い出そうとしても出てくるのは祐くんからもらった言葉ばっかりでね。だから思い出せないの」


「そ、そっか。なら仕方ないのかな?」


 俺は嬉しかった。俺の言葉がそこまで葵の心に残っていたことに。


「それじゃ電車も来るしそろそろ駅の中に入ろうか」


「ま、まって祐くん!」


 俺は駅に行こうとするけど葵はさっきいた場所にずっと留まっている。俺は向き直って葵の方を見た。


「私は祐くんが大好きです。これからも私と一緒に居てくれますか?」


 俺はハッとした。前に俺が告白した場所で。次は一緒に居てくれますか?俺たちがしっかり一歩前に進んだってことを強く感じられた。


「はい。俺も葵のことが大好きです。こんな俺で良ければずっとずっと一緒に居てください」


 そう言って俺は優しく葵を抱きしめた。初めて葵を抱きしめたところで次は将来を誓って。


 そう考えると少し泣けてくる。


「祐くん!これはプロポーズなのかな?」


「え?」


 この感動しているときに唐突にすごいことを言い出す葵。でも俺はすぐに言えた。


「ちょっと違うかな」


「え?」


 葵が急に悲しそうな顔をする。でも俺が言いたいのはそれだけじゃないんだ。


「ちゃんと勉強して、しっかり働けるようになって俺と葵がしっかり独立した時。俺が葵を幸せにできるようになった時。そのときにプロポーズさせてください」


 まだ親に頼りっぱなしの俺が葵との将来を約束できるわけない。俺と葵がお互いに独立して支え合える。そこまでいってようやく俺は結婚できると思う。



「分かった。私はその日まで待ってるから。祐くんの隣でずっと」


「うん。長くは待たせないつもりだから。待っていてくれると嬉しい」


「私も頑張らないと。祐くんができないこととかは私がカバーしないと」


 今日は葵に楽しんでもらおうと思ってたのに俺まですごい楽しくなってきてしまった。でもそれはそれで良いかな。


 そんなことを考えながらようやく俺たちは切符を買いに駅に入っていった。

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