65話 約束を果たすとき

 今がその約束を果たすとき。そのために俺たちはここまで頑張って来たと思う。そりゃ、ふつーにハードボールが好きってのもあるけど辛いときとかも俺がここまで頑張れたのはやっぱり目標があったから。


「葵、あの頃からずっと好きだった」


「祐くん、ずっとずっと好きだったよ」


 葵が俺の身長に合わせるようにかかとを上げて爪先立ちになる。


 ずっと俺の目を見て来る葵。俺も目を離さない。ふつう目を瞑る光景を考えるけどなんかそれはもったいないなって思ってしまった。


 震えている葵の唇、そしていつもの葵の肩はスポーツをしている女子って感じでけっこうしっかりしているのに今は俺が肩に置いている手に力を入れたら壊れてしまいそうな感じがした。


 ゆっくり近づいていく唇と唇。心臓の鼓動が加速していく。でも時は止まったかのように遅く感じられる。


 そして、唇に触れる柔らかな感触。今までの気持ちが一気に流れて来る感じ。俺の心に直接葵の気持ちが流れ込んでくるようだった。


 3秒くらいだろうか。でも俺には永遠にも感じられるくらい長い時間キスしていた気がした。


 トッと葵が踵を地面につけた。葵の顔は真っ赤で、目にはうっすらと涙を溜めていた。


「祐くーんっ」


 葵はそのまま俺の胸に頭をピタッとくっつけて来た。


「どうした。葵?」


「今の顔は祐くんには見せれないよー。私の顔、絶対大変なことになってるよぉ」


 そう言って真っ赤な顔を隠す葵の頭をそっと撫でながらようやく再会してから言いたいことを言った。


「おかえり、葵」


 ようやっと言えた。もう俺たちは離れない。そんなそんな気持ちを込めて、俺はこの言葉を口にした。


「うん!祐くんただいま!」


 顔を上げた葵の顔にはもう涙はなく嬉しそうなとびっきりの笑顔だけがあった。



 ◆◆◆



 その後の葵は大変だった。進が俺たちが来るのが遅いってロッカールームまで迎えに来てくれたのにまだ居るとか駄々こねだすし、もう一回キスしたいとか言ってくるし。


 なんとかなだめてようやっと球場の外へ出た。もうみんなは来ていてニヤッと俺たちの顔を見て笑ってきた。そう言うの恥ずかしいのでやめて欲しい。


「お疲れ、みんな。今日は初優勝だな!先生は嬉しいぞ。優勝なんてなかなか味わえるもんじゃないからな!」


 みんな笑顔で先生の話を聞いていた。そしてこの後みんなで打ち上げをすることになった。場所は「let'sバイキング」ってとこ。料理も美味しいのでかなり楽しみだ。


「それじゃ解散、ちゃんと時間間違えないで来いよ」


 楽しい打ち上げになりそうだ。

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