59話 大丈夫

「うーん。そういえば今日は決勝だったっけ」


 朝の6時。いつものように起きた俺だけど胸に残るモヤモヤは消えることは無かった。でもそんなのをズルズル引きずる訳にもいかない。


「よしっ!」


 顔を2、3回叩いて気合を入れる。しっかりしろ俺。こんなことで負ける俺じゃないだろ。


「おはよ」


「おう。祐輔起きたか。今日試合観に行くからな。頑張れよ」


「お兄ちゃん!鈴も行くからね!お兄ちゃんの姿しっかり観ておくから!」


「鈴ありがと。絶対勝つからちゃんと観てくれよ」


 その後朝食を済ませて葵と一緒に昨日と同じ会場コダマスタジアムに行く。


 俺たちの試合は12時開始予定。それまでは試合を観たり少し体を動かしたりして過ごす。


 普通そうするはずなのに試合そっちのけで各自自分の彼女と遊び始めた。やっぱりうちはどこでもブレないな。



 ◆◆◆



 まぁいろいろあったけどしっかり準備もして試合開始まであと少し。朝感じていたモヤモヤも消え去った。やっぱり心配し過ぎなだけだったらしい。


「後2勝か。今の俺たちなら無理じゃないよな。いける気がするぜ!」


「いや、目の前の試合に集中しろよ」


 そんなこんなで俺たちの準決勝は始まった。



 ◆◆◆



「あー、疲れた」


「後1試合あるとかもう無理」


 試合は4対2で勝った。でも相手も強くてめっちゃ疲れる試合だった。2点取られちゃったし。


「祐くん大丈夫?」


 横にはもちろん葵がいる。ギュッと手を握って葵が不安そうに俺を見つめてきた。


「俺は大丈夫だよ。何か違うところあった?」


「祐くん、今日コントロール悪かったし、それ以上に不安そうな顔してたから」


「コントロールが悪かったのはたまたまだよ。不安そうな顔っていうのはただ疲れちゃったからそれが顔に出ただけだと思うよ」


「ほんとに?」


 葵がもっと強く握ってくる。でも調子が悪いわけでもどこか身体を痛めたわけでもない。俺にできる事は。


「大丈夫、葵。俺は大丈夫。俺たちの夢を叶える為にも俺は全力で頑張るから」


 葵を安心させることしかない。


「なら私は祐くんを信じるよ。よしっ!後1試合頑張ろうね!」


「おう!」


 そのあと「トイレ行ってくるね」って葵が言ったので俺は1人他のチームが試合をしているのを見ていた。


「ふぅー」


 まさかの葵には俺の考えっていうか今、不安な気持ちがあることを見抜かれていた。さすが葵って感じだな。


 でもなんでこんな不安なのか分からないし葵まで変な気持ちにさせたくない。俺が解決すればそれでいいんだ。


「ただいま祐くん」


「おう、お帰り葵。」


「試合はどうなった?」


「たぶん広明高校だろうな。もう5点差ある」


「そこって強いの?」


「めっちゃ強い。俺たちが6月の全国大会予選で負けたところ」


 まだ3年生の先輩がいた時。広明高校にはボコボコにされてしまった。どれだけ俺がコースギリギリに投げても打たれてしまった。苦い思い出だ。


「次当たるなら借りを返す」


「そうだね。私も頑張らないと」


「よし葵、アップしに行こう」


「そうだね」


 いろいろ不安はあるけど大丈夫。俺の横に葵がいてくれるんだから。


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