54話 後アウト3つだよ

「ピンチの後にチャンスあり」そんな迷信っていうかことわざが野球界にはあることを知っているだろうか。それは野球だけに留まらずこのハードボール界でもそのことは知られてる。ピンチを抑えた後、次は自分たちにチャンスが訪れるということだ。言葉の意味まんまだけど。


 6回の裏。2番の宗一郎からの打席。6回の表は完璧に3人で抑えた。そして迎えたこの回、2番バッターからの好打順。


 うちのチームはランナーは出せているんだがその後が続かない。


 先頭バッターの宗一郎もサードゴロに倒れた。


「俺が舞台を整えてくるぜ」


 めっちゃキザなことを言いながら比呂が打席に入っていった。


 キィーン!


 甲高い音がした。まさかの打球は左中間を破るツーベースヒット。正直驚いた。まさか本当に打つなんて思ってもいなかったから。比呂がああいうことを言ったときは凡退がお約束だったのに。


「良し。ならあとは俺が決めて来る」


 誠が自信満々にそう宣言した。これはまさかガチで打ってくれるんじゃないか?


 キィン!


 またもいいバットの音がする。打球は低く鋭い。これは!と思ったがまさかファースト正面のライナー。比呂も慌てて塁に戻った。


 これでツーアウトランナー2塁。ここで俺に回ってきてしまった。うん、少し緊張するな。そんなことを考えながら打席に入ろうとするが、


「祐くん!」


 という葵の声を聞いて振り返ると葵が手招きをしていた。ちょっと落ち着きたかったのもあって1度タイムを要求してベンチにいく。


「どうした、葵?」


 葵は何も言わず俺の手を握るとその手を自分の目線まで持っていって目を瞑った。5秒ほどして目を開けた葵。


「祐くんが打てるようにちょっと念を送ってみた」


 やば、めっちゃ可愛い。試合中じゃなかったら抱き締めてかもしれない。


「祐輔〜そんなことしてもらったんだから打てよな」


 そんなエールっぽいものももらって打席にもう一度入る。ここまでしてもらったんだから打って期待に応えたい。


 初球ストライク。2球目変化球が外れてボール。 3球目インコースの球をファールにした。ワンボールツーストライク。追い込まれてしまった。リラックスリラックス。


 手にはまだ葵の温もりがある。


「ふぅ〜、よし!」


 4球目また来たインコースのボールを思いっきり引っ張った。


「抜けろ!」


 打球は三遊間を真っ二つに破っていった。ランナーの比呂も全力で走って先制のホームを踏んだ。ベンチにいるみんなが俺も打ててすごく嬉しい。葵のおかげかもな。



「いよいよ最後だね祐くん」


「後アウト3つだな」


 ハードボールの試合は7回までなのでこの7回表を抑えたら俺たちの勝ちだ。


「頑張って祐くん!」


「もちろん。葵もね」

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