番外編 ある日のハードボール部の練習


「おはよ〜。」


「おはよう。」


「おっす。」


「うえーい。」


 俺が部室に入ると色々な種類の挨拶で俺を迎えてくれる。今日は土曜日なので9時から練習開始。ちなみにこれが十二条高校ハードボール部の朝だ。


「じゃあ、葵また後で。」


「うん。はやく出てきてよね。」


「わかってるよ。」


 短く一緒に来た葵と軽く言葉を交わし部室に入る。葵は女の子なのでマネージャーの部屋で着替えることになった。


「祐輔〜。朝っぱらから熱いなぁ!おいおい!」


「いや、それほどでもないだろ。お前たちの方がよっぽどバカップルだ。」


「なわけないだろ。俺たちはかなり控えてるぜい。」


 この自覚なしバカップルの大森 比呂が言ってくる。こいつらは中学の時公開告白をして付き合い始めたすごい奴らだ。すぐに別れるかと思ったけどお互い両思いだったからか気持ちが通ってるからか今でもラブラブで別れる気配がない。そっちの方がいいけどね。


 そんな無駄話をしながら着替え終わった俺は部室を出る。練習開始までもうすこし時間があるので他の人はまだ部室にいるらしい。


「祐くん、遅い!」


 けっこう早めに着替えたと思ったんだけど葵はもっと早く着替えてた。


「ごめんごめん。それにしても葵早すぎだよ。」


「あ、神子戸くんおはよう。朝早くから彼女とイチャついてるのかな?」


「違うし!そんなわけないもんね。」


 この人は我らがハードボール部のマネージャーさんで吉沢 朱音(よしざわ あかね)が水の入ったボトルを持って俺を茶化してきた。ちなみにレフトを守る松本 弘樹(まつもと ひろき)の彼女でもある。


「んまぁ、そう言うことにしといてあげよう。でも葵ちゃんと神子戸くんのバッテリーってもう怖いもの無しだね。9月の予選大会楽しみだよ。」


「祐くんと私はすっごい糸で結ばれてるからね!」


「あっつーい。あ、私はちょっとお茶作らないと。」


「了解。いつもありがとな。」


「いえいえ。これが仕事ですから!」



 ◆◆◆



 俺たちがグランドにあるベンチで喋っていると他の部員のみんなもグランドに出てきた。部活が始まる15分前、グランドにラインを引いたりボールを出したりして準備する。マネージャーがお茶の入ったやつを持って来れば準備は完了。


「よーし。始めようか。」


 野球のユニフォームに身を包んだ先生がやってくる。この人も中学まで野球をやっていてハードボールの練習では部員が9人しかいない俺たちと一緒に練習をしている。25才で俺たちのお兄ちゃん的存在だ。


 ランニング、キャッチボールとアップをこなしていく。


「じゃあ、次ノック行こうか。」


 それぞれのポジョンにつくとサード、ショートと順々に打球を打つ。人数が少なくて不便なとこもあるけど、効率のいい練習だと思う。



 ◆◆◆



 ジャー


「あぁ!気持ちいい!」


 夏の暑い日はこうやって水を頭から被るに限る。水を止めて思った。タオルがない。


「まぁ、しょうがないか。」


 俺はいい加減なことを考えてつつ、水を切るために首を振ってると頭にタオルがかけられた。


 とても甘い匂い。俺のタオルじゃない。後ろを振り返ると葵がいた。


「んもぅ!ちゃんとタオル用意しとかないとダメだよ、祐くん。」


「サンキュー。このタオルって葵の?」


「そうだよ。私タオル三枚あるから貸してあげる。」


 そう言って俺が移動した木陰に葵も入る。


「祐くん。私たち、夢に近づいてるかな。」


「近づいてるよ。俺はそう思ってる。」


 そっと木陰で葵の手を掴んだ。


「だって今は俺たち一緒にハードボールやってるだろ?なら、必ず俺たちの手で掴めるさ。」


「祐くん。」


「葵。」


「祐輔!練習また始まるぞ!はよ戻ってこいよ!」


 めっちゃいい雰囲気になりそうなところでまさかの現実に引き戻されてしまった。

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