38話 なんてお願いしたの?


 広電宮島口に着いた。ここからはフェリーで宮島まで移動だ。フェリーに乗れる機会はそんなにないから少し楽しみだ。


「いい風吹くね。とっても気持ちいいな」


 フェリーに乗った俺たちは甲板に出て海を眺めている。


 葵の髪が海風に吹かれてふわっと揺れる。前にデートした時と同じ服装の白いワンピース。揺れるショートヘアの髪とワンピースが映画のワンシーンかと思わせるくらい絵になる。


「ほんと可愛すぎだろ。葵って」


「何か言った?祐くん」


「いいや。何も言ってないよ」


 俺の言ったひとりごとは海風に寄って葵に届くことはなかったようだ。





「祐くーん!鹿だよ!鹿がいるよー!」


「そりゃ宮島だからいるよ」


 宮島といえば厳島神社だけど鹿もたくさんいる。葵は鹿をなでなでしながら楽しそうに微笑んだ。


「葵、はい、チーズ」


 パシャ


「え?祐くん今全然準備してなかったんだけど!」


「今の葵とっても楽しそうだったからさ。写真撮りたくなって」


 自然体の葵を写真に収めたかったのでいきなり撮ったけど、うん。とっても良い感じだ。


「そういえば祐くんとあんまり写真撮ってないよね?」


「そうかも知れないね。なんか撮ろうって感じにならなかったよね」


 どこかに行ったとしても葵と居るだけで満足して写真なんて撮ってこなかった。これは重大なミスだ。


「これからは一緒に写真撮りたいんだけど良い?」


 もちろんオッケーなので俺は首を縦に振っておいた。


 鹿ともう少し遊んだ後俺たちは厳島神社に到着した。参拝料を払って中に入る。


 やっぱり神社は威厳があって神聖な感じがする。回廊を進んで行くと参拝するところに着いた。


 作法通りに2礼2拍手1礼をしてお参りする。


(これからも葵と一緒にいれますように)


 俺にとって神様にお願いしてするのはただ葵とこれからもずっと一緒に居れますように。と言うことだけ。本当は他にも沢山お願いしたいことはあるけど、他は自分の力で必ずとってみせる。


 葵と居るのは神様に頼んででも大事なこと。


 ===


(祐くんといつまでも一緒に居ることが出来ますように)


 私は神様にそう願った。横には真剣にお願いする祐くんの横顔。最近、何回もずっと居たい、ずっと居たいって言ってるから今日ここでお願いしたらもう言わないようにしようと思う。


(なんだか何回も言うと安っぽくなっちゃいそうだから。でも好きって言うのは違うよね。うん。絶対違うよ)


 私の中で謎の決め事をして、祐くんも終わったのか私の顔を見てた。


 回廊をまた歩いて外に出た。


「葵さっきなんてお願いしたん?」


 祐くんが聞いてくる。どうやって答えようかな。


「言えないよ〜。でもぜったい叶うの」


「それはすごいお願いだな」


 このお願いは絶対に叶う。私はそう思ってる。


「祐くんはなんてお願いしたの?」


「俺?そうだな〜」


 そう言う祐くんは唐突に私の手を握ってきた。とても暖かくて私より大きい手。


「俺も内緒かな?」


 そう言った祐くんの顔はとても輝いていて。私は祐くんがしたお願い事が分かった気がした。


「ずっと一緒だよ」


 祐くんには聞こえないように呟くように私は言った。

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