33話 野球観戦に行こう(6)
最終回9回の裏。0対0で迎えた最終回。お互いほんとに譲らずまだ先発のピッチャーが投げている。
「すごいよな葵。こんな試合にこれるなんて」
「ほんとだよ祐くん。お義父さんに感謝だよ」
やっぱり葵のお父さんにはニュアンスが違う気がしていけない。
おおおおおお!!!!!
球場が一気にどよめく。先頭バッターが綺麗にセンター前ヒットを打って出塁した。
ノーアウトでサヨナラのランナー。このランナーがホームに帰ればカーブの勝ちが決まる。
球場は大盛り上がりだ。俺たちも声を出して応援する。
2番のバッターが綺麗に送りバントを決めて1アウト2塁。チャンスだ。一打で試合が決まる。
「あぁ。こんな場面で投げたいわ〜」
こんな場面で投げたい。この緊張するバッターとの対決。全力でバッターを打ち取るために投げる渾身の一球。
「こういう場面って痺れるよね。私もこんな場面で祐くんの球受けたら絶対に抑えれると思うよ。祐くんは最高のボールを投げてくれると思うから」
「あぁ、きっと抑えるよ」
葵が俺を信じてくれるなら俺は絶対抑えてみせる。
「大チャンスだよ葵。ここで打ったらめっちゃかっこいいよな」
「そうだね。今日のヒーロー確定だね」
球場にはチャンステーマが流れて押せ押せのムードがすごい。
次のバッターは3番打者の国見選手。打率はリーグ5位の成績で打ってくれる感じがする。
ああああああ〜〜〜〜〜
球場全体がため息をついた。結果は三振。カーブのファンからはため息。相手チームのファンからは歓声が上がった。
「ここで三振かぁ」
「仕方ないよ、祐くん。あの低めのスタイダー手が出ちゃうよ」
「葵だったらさっきみたいな配球にする?」
「どうだろう。私は祐くんの事しか考えてないからねー。でももしあの場面で祐くんが投げてたら、私はストレートかな」
「お?それはなんで?」
「だって、昔から困ったらストレートでしょ?その時の祐くんのボールは本当に心のこもったボールだったから。ピンチの時の祐くんいつもカッコいいのにもっとカッコよかったもん」
少し遠いところを眺めながら葵は昔の試合を思い出しているようだった。その顔は昔のかわいさとは違う大人っぽい可愛さがある。
「カッコいいって言われるとやっぱ照れてしまうよね」
「んー?祐くん照れちゃってるの〜」
葵が脇腹を突きながらニコニコしている。
「あ、葵!ほら次4番来たぞ!打ってくれー!」
俺は全力で応援して恥ずかしさを誤魔化した。
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