29話 野球観戦に行こう(2)

 俺たちはスタジアムに向かって歩いていた。もちろん手は繋いでる。夏の4時。暑くて手にも汗がついていそうなんだがいいのだろうか。


 スタジアムまでは駅から1キロくらい。ユニフォームを着た人も結構見受けられる。これからの戦いを観にくる同志たちが。


「葵。手汗が俺やばいんだけど大丈夫かな?」


 やっぱり気になったので葵に聞いてみた。


「そんなの気にならないよ。私もたぶん汗かいてるし。それくらいで手、離したくない」


 そう言ってぎゅっと手を握ってくる。そうだよな。葵の言う通りだ。汗とかどうでもいいよな。


「ならもっと寄ってもいいか?葵」


 俺はそう言って俺と葵との少しの隙間を詰めた。


「なら私はこうする!」


 葵はさっきまでぎゅっと繋いでいた手を離して俺の腕に自分の腕を絡ませるようにしてきた。


「ちょ!葵!それはアウトアウトー!」


「なんでよ祐くん。いいじゃん」


「いや、めっちゃ恥ずかしい。他の人めっちゃみてるしさ!」


「んもう!やっぱり祐くんは人目を気にしすぎだよ。周りの人なんて1分もすれば私たちのことなんか忘れちゃうんだから。ね?もっとこうしてたい」


 ほんと葵は超が付くほどの大物になってしまった。でもこれだけ俺のことを好きでいてくれるのは本当に嬉しい。


「葵。好きだよ。ほんとに大好きだ」


 俺は他の人には聞こえないように葵の耳元で小さく、でもしっかり聞こえるように言った。


「ゆ、祐くん!そう言うのは、人前で言っちゃダメだよ!」


 葵の顔が一気に赤くなった。自分からアプローチするのはいいけど、されるのはやっぱり恥ずかしいらしい。


「俺は想ってることを言っただけだぞ?」


 俺は内心、心臓ばくばくでやばいけど出来るだけ平然を装って答える。


 すると葵が俺の耳元に顔を近づけて


「私も祐くん大好き」


 そう言って顔を遠ざけた。


 その後はお互い顔真っ赤だったことは言うまでもない。


 屋台のおっちゃんが「へいへい!熱いねぇそこのカップルさん!」と言っていたのを少し覚えてるくらいだ。



 ===


 さてあの事件以降お互い黙っていたけどついに入場ゲートまで来てしまった。手荷物検査を受けてついに入場した。


「葵どうする?まずはユニフォームに着替える?」


「そうだね。ならトイレに行って着替えようか」


 俺も了承してトイレに向かう。ほんとに人が多い。まだ試合開始2時間くらい前なのにコンコースは人で溢れ返っている。


「じゃ、着替えたらトイレ前でね」


 俺たちはそう言って一度離れる。


 一瞬で着替えた俺は今日何を買うかなど悩んでいた。やりたいことがいっぱいある。ホテルとか明日どうするかとか。


「おまたせ祐くん」


 俺の悩みは吹っ飛んでしまった。そこにいた葵はカーブのユニフォームを着ているだけ。なのに他の女の子より見違えるほど可愛い。


「葵。めっちゃ可愛い」


「え?」


 しまった。思ったことが出てしまった。


「ん?ユニフォーム姿も可愛いってことだよ。何着ても葵って似合うな」


「ん、あ、ありがと。祐くん。ほんとに私も嬉しい!」


「じゃ買い物はじめますか」


「そうしましょう!」


 試合まだ始まらないのにめっちゃ楽しい。ほんと最高だ。

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