4話 9人で

 グランドにみんなが集まった。久しぶりの9人でのハードボールだ。


 いつものようにアップをこなしていく。


 そして一通り終わったところで風間が俺と葵に声を掛けた。


「せっかくだし、2人でブルペンで投球練習してこいよ。祐輔も最近ずっと投げてないだろ?」


「うん!私祐くんの球受けたい!どうかな祐くん?」


「ん?あぁ...いいんじゃない?ならブルペン行こうか」


 俺と葵はゆっくりブルペンへ向かって行った。背後から風間が「久しぶりだからってイチャつくなよ〜」とか言っていたがそんなのは俺たちの耳には入っていなかった。


 プルペンに入ると俺たちまたキャッチボールを始めた。いきなり思いっきり投げて肩を壊さないようにするためだ。


 その間俺たちが会話をすることは無かった。何を言えばいいか分からなかったから。

 重苦しい空気に耐えられなかったので俺が口を開いた。


「葵そろそろ座って貰ってもいい?必要だったら防具着けてもいいよ」


「あっうん、そうだねつけたほうがいいかな。ちょっと待ってね」


 しばらくして戻ってきた葵がキャッチャーミットを構えた。


 座り方などがとても熟練度の高さを出している。雰囲気がすごいのだ。


「もし良かったら最初ど真ん中に思いっきり投げてくれないかな?祐くんの思いっきりを受けたくて。えへへ」


 一瞬ドキッとしたが「うん、わかった」とだけ言って軽く振りかぶった。


 そして、葵のミットを見たときなんとも言えない感覚が走った。


 もう無理だろうと思った葵とハードボールをすること、それが今目の前に葵がいて自分にミットを向けている。


 小学校の時と変わらないこの感覚。


 やっぱり最高だと俺は感じながらさっきまでのことなどを一切考えず、ただ嬉しさだけをボールに込めミット向かって投げた。


 バッチーンという音と共にボールは葵のミットに収まった。


 それは多分今まで投げた中で1番の球だった。球速、ボールのキレ共に過去最高と思えるほどだった。

 そして葵の顔を見てみると少し涙が浮かんでいるようだった。


 思いっきり投げすぎて手を痛めてしまったのか。そんな事を考えて大丈夫かどうか聞こうとしたら葵が口を開いた。


「祐くんの球をまた受けれると思ってなくて、祐くんの球受けたら嬉しくて涙出ちゃった」


「そっか、ならこのままもっと投げるよ。俺も葵とこうしてできてすごい嬉しい」


「うん、さぁこい!」


 そして俺たちは部活が終わるまでずっと投げ続けていた。

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