3話 やってきました

 葵がこの学校に転校して来た日の部活はみんなテンションが高かった。


「めっちゃ若宮ちゃん可愛くなっとるやん!」


「祐輔良かったな〜!」


 いろいろな事を言うチームメイトだがやはり俺の気分は乗らなかった。葵には自分とはちがう、「好きな人」がいることがわかったから。葵が転校して来たのか嬉しそうにしてない俺を見て気にしたのか進が話しかけてきた。


「どうした祐輔?久しぶりに若宮ちゃんに会えてうれしくないのか?」


「いや、めっちゃ嬉しいよ。もう会えないと思ったからな。うーん。だけど少しな」


 落ち込んだテンションでそう言う。すると突然部室のドアがノックされた。マネージャーではない。あと2人はいつも突然ドアを開ける、どっちかといえば天然なのだ。


「あの〜すみません。ハードボール部の部室ここですか?」


 聞いたことのある声。そう、紛れも無い若宮葵がドアを開けた先に立っていた。ドアを開けた俺は動揺を隠しながら「うん。そうだよ。」とだけ答えた。すると葵は満面の笑みで


「今日から、ハードボール部に入ることにしました!中学校でも前の学校でもやってたから戦力にはなると思う!」


 そう言うと部員たちは「おおお!!若宮ちゃん久しぶり!」「まだハードボールやっとったんや」など口々に言い出した。


「ポジションはどこなん?」


 風間がそう聞くと葵はなぜか顔を赤くしながら


「小学校と同じキャッチャーなんだけど...」


「おおお!!ならまた祐輔とバッテリー組めるな!今うちの部活先輩のキャッチャーが引退して困ってたんよ。」


「そ、そうなんだ!うん、嬉しいなぁ。また祐くんのボール受けれるなんて。」


 そう言う葵はとても嬉しそうだったが俺はそれには気付かず


「そっか。ならもし良かったら久しぶりにキャッチボールでもしよう。」


 そう言って部室から出て行った。なんとも言えない感情を持ちながら。




 祐輔が出て行ったあと、若宮と他の7人の部員たちは部室で祐輔のことについて喋っていた。


「せっかく若宮ちゃんこっちの学校に帰って来たのに祐輔うれしく無いんかなぁ?」


 そうこれについては部員全員が疑問に思っていたことだ。葵が転校して来てから祐輔のテンションはみんなから見て分かるくらいに下がっていた。

 自分の好きな人と5年ぶりくらいに会えたのにどうしたのだろうかと。


「なぁ、若宮ちゃん。今日、祐輔となんかあった?」


 祐輔のテンションがここまで下がるということは若宮関係のことしかないと分かっている風間はそう葵に聞いた。


「え?私は何もしてないよ。今日はみんなから話しかけられてあんまり祐くんとお話しできてないんだ...」


 祐輔は葵が話しかけてこないくらいでここまでになることはない。


「ならクラスメイトとどんな事喋った?」


 もうヒントはここしか無いだろうと風間は聞いた。


「うーん。連絡先とか、得意科目だったり?ふつうのことばっかりだったよ。あと彼氏居るとか聞かれたかな。」


 この言葉を聞いた7人はすぐピント来た。


「若宮ちゃん。彼氏居るって聞かれてなんて答えたの?」


 葵は顔を真っ赤にして


「ずっと好きな人がいるよ。って答えたけど...」


「あぁ、祐輔があんなのだったのはこれが原因か。」


 葵以外の7人にはわかったようだった。祐輔がとてつもない勘違いをしていることに。

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