2話 約束は有効?


 8人というハードボールをするには到底足りない人数で練習をした次の日、いつも通り朝のホームルームが始まった。ちなみに8人で試合に出ても大丈夫なことになってはいる。俺はぼーっとしながら担任の小林先生の話を聞く。他のみんなもそんな感じだ。しかし、次の一言でクラスの雰囲気が一気に上がった。


「今日は転校生が来ています。入って来て下さい」


 クラスの男女が、「可愛い子かなぁ」とか「絶対イケメンよ!」とかはしたないことを言っているが俺は大して気にせず誰だろうかと思う程度で転校生が入ってくるのを待った。


 だが、俺は目を疑った。入って来た転校生は小学校6年の夏、県大会決勝を最後に二度と会うことのできないと思っていた若宮葵(わかみや あおい)だったからだ。クラスは大盛り上がりだ。「めっちゃ可愛いやん!」「私お友達になりたい!」とか声がクラス中から聞こえてくるが俺は驚きや再会の嬉しさで声が出せなかった。そんな中、葵が声を発した。


「初めまして、若宮 葵です。山内女子学園から来ました。はやくみんなと仲良くなれるように頑張ります。よろしくお願いします」


 クラスは拍手喝采だった。それもそうだろう。こんな超絶の美少女は雑誌とかでしか観たことがないレベルだったからだ。艶やかな明るい色の髪をボブカットにしていて、大きな真ん丸の瞳が印象的な整った顔立ち。昔の少しやんちゃだった頃の葵とは違いとてもおしとやかなイメージだ。クラスが盛り上がる中小林先生が


「じゃあ、若宮さんの席は...ごめんなさい。1番後ろで1人になっちゃうんだけど...」


「ぜんぜんいいですよ!頑張ってみんなと仲良くなれるように私頑張りますから!」


 葵が1番後ろの席を了承したのでこれで朝のホームルームは終わった。終わった瞬間クラスの男女が葵の席に群がった。


「若宮さん!友達になろ!」


「若宮さんって彼氏いるの?」


 みんなが口々に葵へ質問をしていく。葵はちょっと戸惑いながらも


「みんなよろしくね。ちなみに彼氏はいないよ」


「えええええーーー!!うそだぁ!若宮ちゃん、こんな可愛いのに彼氏居ないの!?」


「これはワンチャンあるぜええ!!!」


 またクラスの男女が盛り上がった。


「なら、好きな人は居ないの?」


「うん、ずっと好きな人がいるよ...」


 もうクラスはお祭り騒ぎだった。そんな中、俺は葵の好きな人についてずっと考えていた。


(葵の好きな人って誰だろう。ずっとって言っていたからな、中学の時に好きな人でもできたんだろう。そうだよなあの時の約束なんて覚えてないだろうし、もし覚えていてももう無効だよな)


 俺は少しテンションを下げながら教科書を取るために廊下へ出ようとした。その時ふと葵の声がした。


「祐くん!久しぶり!また会えたね!約束、1つ達成したよ!」


「あぁ、そうだな。ほんと久しぶり」


 俺はごちゃごちゃした感情を抑え出来るだけ素っ気なく返事を返した。だって今は分かるはずがなかったから。葵がどんな気持ちで俺にこの言葉を言ったのかなんて。

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