【わたしと花子さん】7









「それじゃあ全く食リポになってないよ。もっと、味がわかるように言って」



「うーん」



「私が思い出せるように言ってよ?死んだのなんてもう随分前なんだから」



そっか。そうなのか。

どう、言葉にすれば伝わるだろう。




「口に入れるとね、ほろほろするんだ」

柔らかく纏まった鳥ひき肉なの。



「うちのはね、刻んだ大葉を入れてるの。ごま油と鶏がらスープを合わせて塩をふったタレに絡めるんだ」



「照り焼きじゃないんだね」



「花子さんちは照り焼きだった?」



「うん。甘じょっぱい、もったりトロっとしたタレだった。上に玉子の黄身を乗っけて、潰して、絡めて食べるんだ。出来たてで熱いから、口に入れてほくほくっ、はふはふってね」



「へえ」



「でも君のもいいね。大葉の風味、ごま油に負けない?」



「……最初の味はごま油が強いかな。大葉は後味に仄かに香る感じ。照り焼きも大好きだけど、そっちよりこっちのがさっぱり目かな」



「ふうん。……ねえ、さっきの卵焼きは甘い? しょっぱい?」



「しょっぱい。うち、母親が関西出身で。だしの味が仄かにするの」



口元を押さえつつ私は答えた。





「それは?そのおむすび、何か混じってない?」


「ああ、これ?」


つくねを飲み込んで、今度はおにぎりを一口かじる。



「桜エビと天かす、塩昆布のおにぎり。あ、あと白胡麻もはいってる」


「へえー。綺麗だね。色んな色があって」


「そう? あんまり意識してなかったけど」


かじりかけのおにぎりを目の前に掲げた。

言われてみれば、桜エビの赤、天かすの黄色、塩昆布の細い、ツヤツヤした黒……色とりどりだ。



「美味しそう。ふふ、よだれ出てきちゃった。でも、そんなにこだわって作ったご飯、どうしていつも捨てちゃうの?食べなきゃダメだよ。体調崩すよ」


「……どうして、それを知ってるの?」




私がご飯を始末するのは、自宅だ。

食べ物を粗末にするのはどうしても躊躇ためらわれたから、一日が終わるギリギリまで食べきれるかもと言う希望を持つのだけれど、結局、食欲が無くて食べられないのが最近のお決まり。



花子さんの大きな黒目が所在なく彷徨さまよった。





「……もしかしてだけど、私の後付いてきた?」


花子さんが、やたらにまばたきを始めた。

長いまつげが高速で上がったり、下がったり。



バサバサバサ。



もしかしたら彼女は、私を見かけて、食が細ってきたのを心配して……?








どうしてだろう。怖いとは、思わなかった。

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