第3話 門出

 「ったく、相変わらず無意味なサプライズが好きなのな、お前。今日は何?」ふふっ。きっとびっくりするよ?「そーゆーの良いから。俺、明日早いしさ。あ、あと明日の夜居ないから。メシ作んなくていいよ」えー!記念日じゃん、明日。準備してたのに。お仕事?「そ」・・・・・・お仕事なら、仕方ないよね。ごめんね、空気悪くしちゃって。ご機嫌なおして、これ見てよ。「はやくしろよ」はいはい。


 じゃーん!「なにこれ、船のチケット?」そ、海が好きだって言ってたから、準備したんだ。ね、どっちに行きたい?好きな方、選んで。「へー、やるときゃやるじゃん。いき先は・・・・・上海か、ウラジオストック?国外かよ」うん!夜に晴海埠頭から出発の、ナイトクルーズだよ!ロマンチックでしょ?ドキドキしちゃうよねぇ。やっぱり門出は華やかにいかなきゃ。


 「新婚旅行かぁ。ずっと同棲してたしさぁ、実感ねぇな」あはは!そうだよね。この家ともお別れかって思うとさびしいよ。「?・・・・・・引っ越しはまだ当分先だろ?気ぃ早えーよ」・・・・・・うん、引っ越しは先でもさ。気分的にね。「ふーん」まあ、それは置いといてさ。どっちがいい?「夏だしなぁ・・・・・・ロシアで」日本海か。いいね。じゃ、上海はキャンセルしとくよ。「ん、頼んだ。・・・・・・あ、職場から電話来た」はいはーい。




 『新婚旅行だっる』『ロシアか中国ってセンスがないわぁ。てか一週間とか長すぎない?さびしー』『俺も寂しいよ。だから明日も会うんじゃん。ま、服とか靴とかいくらでも買えよ。どーせアイツに全部出させてるんだし。それで勘弁してやって?』『はいはい。ムカつくけど、パトロン様々ってね。・・・・・・えっ、なにこれ』『どしたん』『こないだのショッピングモールでやった抽選・・・・・・ナイトクルーズ当たったんだけど。いまメール来た。・・・・・・あれ?同じやつじゃない?これ』『マジ?写真送ってよ』『・・・・・・あっ、やっぱそうだ、日程も同じ!やだぁ、めっちゃウケる!ね、新婚旅行中にデート出来るじゃん、これで』『へー・・・・・・なら行ってやっても良いかもな』『あっは、楽しみぃ』




 ・・・・・・ん、電話終わったの?「おう!」どしたの、ご機嫌じゃん。「別に。関係ねぇだろ?もう寝るわ、俺」はーい。お休みなさい。




 ・・・・・・ふふ、ホントに私が騙せてると思ってるんだからおめでたい頭してるよね。片思いで相手に尽くすのが楽しいって読んだから、顔だけは良いの選んで遊んでみたのにさぁ。こんなの、何が楽しいんだろ。こんど調べてみなきゃ。あっ、でも騙されてるふりして毎日過ごすゲームとしては楽しかったかも。うん、暇つぶしとしては合格かな?


 さてさて、天国だか地獄だかへの門出は盛大に逝ってもらわなきゃね。そのための準備は抜かりなく・・・・・・そうそう、いつか君らがLIMEで惚気てた通り、死ぬ時も一緒だよ(はぁと)ってね。遺体は・・・・・・まあ、海の底かなんかだろうけど。あれ?Дядяジャージャのとこだとコンクリにするんだったかな?ダイヤにするってのもねぇ。高値つかないし、あれ。


 あーあ、上海の大姐ダァジェ、ご機嫌斜めになっちゃった。はいはい、キャンセルになってごめん、これが済んだら行きますよ・・・・・・っと。Дядяジャージャはお礼にオリエント急行ツアーに付き合えって?勘弁してよぉ。この前台湾一周ツアーしたがったのに、途中で長すぎて退屈って大騒ぎしたの自分じゃん。あれの何倍あると思ってんの?


 とはいえ、今回はほーんと、助かっちゃった。って、自分でやると手間だもんねぇ。昔の小説だったら、ちょっと埋めとけば済むのに。


 早く次の暇つぶしを見つけないとなぁ。退屈で死んじゃうかも。

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