変わる世界(4)
夕方、パーティーは解散になり、おれ以外の全員が家から出て行った。
五分後、直哉だけが戻って来た。「忘れ物した」と言って抜けて来たらしい。どうしてそんなことをしたのか聞くおれに、直哉は不敵に笑いながらこう言った。
「今日、やろうって言うたやろ」
そして、さらに三十分後。
おれは部屋のベッドで裸になり、同じく裸の直哉と並んで横になっていた。本当はあまり家でこんなことをしたくはない。リスクが高い。だけどせがまれるとつい欲に屈してしまうし、直哉もそれを分かって押してくる。本当にこいつ、今日に至るまでどれだけの男を喰って来たのか。気になるけれど、怖くて聞けない。
「なあ」
直哉がおれの胸に頭を寄せて来た。甘えた素振り。柔らかい髪を撫でながら、静かに答える。
「どした?」
「今度、純と3Pしようや」
――甘やかすんやなかった。おれは「アホか」と直哉の頭を叩いた。ベッドを出て、床に脱ぎ捨てたボクサーパンツを拾うおれに、直哉が不満の声を上げる。
「えー、なんでなん。明良もやりたいやろ」
「やりたいわけないやろ。この性欲魔人が」
「でも明良、純のこと好きやん」
パンツを履く手が、思わず止まった。
とりあえず、履く。履いてから「はあ?」と威圧的な声を出す。直哉は何ら動じることなく、布団の中でニヤニヤと笑っている。
「バレバレやで。名前呼ばれた時とか、めっちゃかわいかったわ」
「意味分からんわ。勝手な勘違いすんな、アホ」
「じゃあ、俺が行ってもええ?」
返事に詰まる。詰まったことに動揺してさらに詰まり、言葉が全く出てこなくなる。直哉がベッドから下り、自分の脱ぎ散らかしたものを身に着け出した。
「気になっとんねん。でも明良も気になっとるみたいやし、なら3Pが落としどころやなと思ったんやけど、明良がええなら一人で行くわ」
「マジで言っとる?」
「大マジ」
「あいつがお前のこと、バラすかもしれへんぞ」
「別にええわ。最近、親バレしたから、怖いもんないし」
親バレ。――次から次へと新情報を繰り出すな。ついてけんやろ。
「大丈夫やった?」
「俺、ええとこの長男やし、男の兄弟もおらんやろ。誰が家を継ぐんやーって大騒ぎになっとるわ」
「いや、そうやなくて、気持ち悪いとか、そういうの言われんかったか?」
来た時と同じ制服姿になった直哉が、パンツ一丁のおれと向き合う。長い前髪の向こうの目が、ゆっくりと細く柔らかくなっていく。そして直哉はおれに近寄り、おれの背中に手を回し、おれの身体を抱きながら、おれの耳元で囁いた。
「あんがと」
質問に答えろ。そんなことを言う気にはなれなかった。答えないことが、答えな気がしたから。
「じゃ、俺、帰るわ」
「え?」
「また明日なー」
直哉が部屋から出て行く。おれは「ちょっと待てや!」と追いかけようとしたけれど、自分がパンツ以外なにも身に着けていないことに気づいて足を止めた。ベッドの縁に腰かけ、はーと息を吐きながら肩を落とし、ぼんやりと中空を眺める。
――明良、純のこと好きやん。
「……んなわけないやろ」
独りごちる。手を股間にやり、無為に薄い布を撫でているうちに、またそれが質量を増し始める。ついさっきやったばかりなのに、おれというやつはどうしてこうなのだろう。自己嫌悪にまみれながら、おれはボクサーパンツのゴムに手をかけ、一気にそれをずり下ろした。
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